私と上司の秘密
〈卒業式の日〉


どうしようか迷ったが、私は、卒業式には、
出ることを決めた。


私は、久しぶりにまともに、鏡を見たような
気がする。


すこし、やつれた感じがして、目の下にクマが
出来ていた。


誤魔化すように、いつもより、濃いめの
メイクをした。


卒業式をする講堂に足を踏み入れたすぐに、
ワタルが私に駆け寄ってきて、

「久しぶり。
少し、痩せたんじゃない?」

と声をかけてきたが、態度は、よそよそし
かった。


『ワタルのせいじゃない!』

と言いたかったが、話す気力がなく黙って
いた。

私は、目だけが、ワタルを睨みつけていた。


初めは、ワタルにしか気付かなかったが、
ワタルの背中に隠れるようにして、ユキの姿も
あった。


ユキの視線は、一定に定まっておらず、目が
泳いでいるように見えた。


ユキが、何か言おうとしたが、それを
遮るように、ワタルが、

「凛には、悪いことをした。
許してもらおうとも、思わない。
でも、凛と過ごした時間は、楽しかった。
あの時は、凛の事、好きだったのは、
事実だから…。」


そんな事を言わないで欲しかった。


『私の好きだった、その笑顔で…。』


最後までワタルは、優しかった。


大学の卒業式の友達と写っている写真は、
1枚もない…。















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