ぬくもりを感じて
智樹はダイニングの席を立つと、凛花を後ろから抱きしめて言った。


「放ってなんかおけないよ。
キスが嫌なら、嫌だといってくれていい。
突き飛ばされても、殴ってくれてもいいよ。

それでも僕は瑞歩がもどってくるまでは、君を守るから。
これは兄さんや瑞歩に頼まれたことじゃない。
僕が、君を守りたいから・・・僕はもう君のことをかわいい妹だとは思えなくなってしまったから。」


「が、学校ではどうするんですか?
何かあったら先生はクビですよ。」


「大丈夫だって。
あと1年とちょっとだから・・・。
それまでに瑞歩がもどってくるか、君は学校を卒業する。
そうしたら・・・僕は・・・お役御免になってしまうか、君の正式な恋人になれる。」


「困ります・・・そんなの。
もしかしたら、私は爆弾を開発していた張本人として捕まってしまうかもしれないし・・・。」


「そ、そんなことを考えてたのか?」


「だって、そういうことだって十分可能性としてあるでしょ!
私はアメリカでは化学者のひとりとして研究所にいたんだから。

だから、両親はボディガードもつけてくれたの。
ただ、わからないのは、今もさりげなくセルジュが私のことを監視してるようで、怖くなる。」


「本人にどうしてかきいてみたのかい?」


「うん。でもそんなことはしていないって・・・まともには教えてくれないの。
でも、ボディガードをやめて仕事するっていって、私にこんなに近いところで仕事する?」


「そうだね。
守るのは僕にって・・・冗談かと思ったけれど、ひっかかるところはいろいろある。
最近、瑞歩からもメールが来なくて・・・ちょっと心配してる。」


「ぶっ、智樹さんの方が心配性?なんかお母さんみたいだよ。」


「おか・・・好きにいってくれていいよ。
心配性なのは当たってるかもしれないなぁって思ってるし。

ずっと前から家族のことも、家業のことも僕は無視され続けてる。
だから小さい頃から好きだった生き物の研究をやって、先生なんてやってるんだ。

僕が兄さんみたいにやり手と言われるタイプだったらきっと、どこかの会社を任されてるはずなんだろうけどね。
この学校だって理事長に就任したのは兄さんだし、僕もそれでいいと思ってた。


でも、君に関することは兄さんも瑞歩も遠藤先生もどこかでつながっているように思うけど、僕にはぜんぜんわからない。
僕だけ蚊帳の外なんて・・・どうしてなんだって腹立たしくなる。
僕は誰のためにも生きられない人間なのかなって。」


「それで・・・私を守ろうとしたの?」


「たぶん、違うと思う。
日本の生活をぜんぜん知らない君に、生きていく知識くらいつけてあげようって・・・瑞歩がいない間のつもりで家に連れてきた。

けど、実際いっしょに住んで、教えたり、話をしているうちに、君を手放せるんだろうかって考えるようになって・・・そうしたら、僕は君を妹がわりにしてるんじゃないって気づいてしまったんだ。

女性が寄ってくるのは慣れていたはずなのに、自分が駆け寄りたい相手は違うんだって思った。
あきれるかな?こんな女々しいこと考えてさ。」



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