ぬくもりを感じて
凛花はあまりにばかばかしい智樹の言いぐさに、反論する気も失せてしまった。

黙ってパンをほおばり、出かけようとすると、智樹は凛花の左腕を掴んで言った。


「今の僕は君を卒業させないこともできるんだぞ。」


「どうして、そんなこと?」


「保健室から遠藤を追放することもできるけど?」


「ひどいわ!私はいつも智樹さんが疲れた顔をして、ときどきふらついたりして夜遅くに帰ってくるから心配してるだけなのに、どうしてそんなひどいことを言うの?」


「君が僕を自分の世界から追い出そうとするからだ。」


「そんなこと思ってないのに。
だったら、現役をとって、他の仕事を他の人に任せればいいじゃない。
それでもいいと思う。

どれか誰かに任せないと大樹さんみたいに過労で倒れちゃう!」



「心配してくれてるなら、凛花・・・今夜は・・・」


「ごめんなさい、今朝は私日直だから、早く行かなきゃいけないの。
お昼にでも準備室に行くから・・・。行ってきます!」



「お・・・おぃ凛花・・。なんでこうもタイミングが悪いんだ!」



お昼ご飯を食べてすぐに凛花が生物準備室に行くと、女の先生が3人が集まっていた。


「あれ?満原先生は・・・?」


「お疲れみたいで、お昼寝中よ。
ここ、毎日あの調子みたい。

急用でなかったら、あとにしてあげてくれないかしら。」


「あっ・・・す、すみませんでした。失礼します。」


凛花はお昼休みに休むために現場にいるんだ・・・と理解した。



放課後、智樹は凛花のクラスの前をさりげなく通った。

昼休みに凛花が用事があったようだと他の教師からきいたからだった。


「あれ?凛花がいない・・・どこに行ったんだ・・・。」


「木吹ならいないよ。お兄さんから電話があったみたいで、あわてて行ったみたいだから。」


「えっ!瑞歩から?」


智樹が瑞歩に電話をかけると、留守電状態になっていた。


(何があったんだ?)


智樹は慌てて瑞歩のいる研究所に行ってみると、兄妹で顕微鏡をのぞきあって笑っていた。


瑞歩と凛花がロビーに出てきたところで智樹は声をかけると、2人は驚いていた。


「智樹、どうしたんだ?
忙しくなったってきいてたから、ちょっとびっくりだな。」


「僕が来てはマズいような研究をしていたのか?」


「いや、安全な食品添加物を1つ見つけたんで、まずは凛花を呼んで確かめただけだ。
とくにすごい発見にはならないだろうが、企業からの報酬は期待できるぜ。」


「そ、そうか・・・。」


「ははん・・・智樹・・・ここに来たのは凛花に用事があったんだろ?
ごめんな。つい、新しいものを見つけるとうれしくなったものだから、凛花を呼びつけてしまった。
先約があったなら申し訳ない。」


「何、謝ってるの・・・お兄ちゃん。
そろそろ私は帰るわ。」


「おい、凛花、智樹がおまえに話があるって・・・」


「私はないわよ。
呼びつけといて、女の先生たちをハーレム状態にしていい夢みてたんでしょうから、好きなところで寝てればいいわ。」


「凛花!待ってくれ・・・はぁ・・・。」


凛花は研究所を後にしてさっさと家に帰っていってしまった。


「智樹、ハーレム状態で夢を見れるっていいな。」


「僕は寝てただけだ・・・周りなんて知らない!」
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