冬夏恋語り


冬の気配が色濃くなるのもこの頃で、朝夕の暖房が欠かせなくなってきた。

エアコンは手軽でいいがどこか情緒にかける気がするのは、地方に拠点をおいているとき大いに役立ったコタツを懐かしく思い出すからだ。

陽だまりのようなぬくもりは、コタツでしか味わえない。

友人から譲ってもらったコタツはかなりの年代物だったこともあり、引っ越し時に粗大ゴミとなった。

昨年の冬、新たに買おうか迷ったが、結婚後の生活を考えて購入を見送ったのだった。

一人暮らしなら小さいサイズでよいが、ふたりならやや大きめのサイズだろう。

来客を考えればもっと大きなコタツが必要である、と、そんなことまで考えていたのに、今年の冬はひとりで迎える結果になってしまった。


学祭準備日の今日、家電量販店へコタツの下見にいった。

特設コーナーには、コンパクトサイズから大型サイズまで並び、ほとんどが冬以外でもテーブルとして使えるようになっている。

女性が好みそうな丸型の天板もあれば、重厚な彫り物が目を引く格調高いものもあり、細工の具合をじっと眺めていると、熱心に見入っていると思われたのか店員が近づいてきた。



「こちらでしたら、8名様まで対応できる大きさになっております。

ご家族がお集まりになり、ゆっくり食事ができる広さがございます。

材質はケアキ、手彫りの細工が……」



よどみない説明に、ふん、ふん、と適当に相づちをうちながら聞き流す。

俺が欲しいのは、もっと小さなサイズだ、大きいものは必要ない、と言いたいのに言葉をはさむ余地がない。

丁寧すぎる店員の説明に区切りが付き、小型のコタツへ足を向けようとしたところで 「お客さま、ご家族は何名様で」 と聞かれた。



「ひとりだけど」


「おひとり様ですか」



微妙に気落ちした顔でそう言われ、「おひとり様用はこちらです」 と案内すると店員は俺のそばから離れていった。

売り上げに貢献できない客とみなされたらしい。

下見する気が失せて店を出た。







「コタツに鍋、今年初めてです」


「うん、酒が進む」


「どうぞ」


「おっ、ありがとう」



持参した酒で井上さんと店長は盛り上がっている。

電気店から 『ニーナ』 に寄ったあと、居合わせた面々で話がまとまり、恋ちゃんの部屋で鍋を囲むことになった。

今夜はミューも一緒だ。

キャットベッドでくつろぐミューは、俺よりも部屋に馴染んでいる。



「いっぱいありますから、どんどん食べてくださいね」


「このコタツ、大きくていいね」


「でしょう? ひとりには大きすぎますけど」



恋ちゃんが、ふふっと笑いながら俺を見る。

電気店でのやり取りを話して聞かせたら、この反応だ。



「どうせ俺はひとりだよ」


「おひとり様のコタツの西垣さんを想像したら、ふふっ」


「だから、笑うなって」



コタツに入って、酒を片手に鍋を囲む。

猫とコタツ、冬の風景だな。

足元が温かくて、ときどき誰かの足に触れたりして、そんなこともコタツならではだ。

やっぱり買おう。

猪口を手に、そう決めた。


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