冬夏恋語り


その夜の恋雪は、すねたり怒ったり、そうかと思えば泣き笑いしたり、くるくると表情を変えた。

感情を隠さずぶつけてくる恋雪に、辛抱強くり向かい合う夜となった。



「先輩がかわいそう? 可哀そうなのは私の方よ。 

あんな子に言いたい放題言われて、ねぇ、そう思うでしょう?」


「うん」



もっと言いたいことがあったのに、翔太に邪魔をされたと口をとがらせる。



「姉より先輩が大事?」


「姉さんの方が大事だと思うよ」


「でしょう? それに、彼女の方は翔太を知らなかったみたいだし。

なのに、どうして翔太がかばうのよ」


「そうだね。どうしてだろう」



肩に顔を乗せながら恋雪の声にうなずき、言葉のすべてを肯定する。



「あーっ、また腹が立ってきた」



恋雪の背中から腕を回して、彼女の手を包み込み、怒りで握りこんだ拳をほぐした。

その手に指を絡ませたが、また感情が高ぶってきたのか手に力が入り俺の指ごと握りしめた。



「風呂敷が古臭い? ダサくてカッコ悪い?

日本の伝統や美意識について話してるのよ、古くて当然でしょう。

ワインバッグの方がオシャレだと思うなら、そっちを使えばいいじゃない。

私が風呂敷で西垣先生の気を引いた? どうやって風呂敷で気を引くのよ! 

あたしが店を紹介してあげたのにって、思い込みもいいところね。

私たちはマンチカンで知り合ったのよって、教えてあげたらよかった。

あぁ、もう……

アカヤって呼んでって、大学は幼稚園じゃないんだから……

あの子の言ってること、めちゃくちゃ……」



やがて、恋雪の声は聞こえなくなり、俺の腕に体を預けてきた。



「はぁ……」


「言いたいこと、全部言った?」


「うぅん、まだ足りない。でも、もういい」


「本当にいいの?」


「うん、聞いてもらったから気持ちが軽くなった」



見上げた顔に応えるように近づいて触れた。

気持ちが高ぶり熱を持っていた恋雪の頬が、俺の冷たい肌に触れやがて同じ体温になっていく。

強張りがとけ柔らかくなった指を絡ませながら、気になっていたことを聞いた。



「彼女の子どものこと、知ってたんだね」


「黙っててごめんなさい……ミヤさんから聞いたの」



ミヤさんの知り合いが、深雪のお父さんの保険代理店の顧客で、そこから情報を得たそうだ。

生れた子どもは男の子だったと聞き、北条愛華の言葉にウソがあると恋雪は気がついた。



「追い詰めるつもりはなかったのに、愛華さんに意地悪な言い方をしちゃった」


「あの状況で、冷静にはなれないよ。先に挑発したのは北条さんだ」


「うぅん、私、大人げなかった。彼女も相当気が強いけど、私もそうみたい。

武士さん、驚いたでしょう?」


「べつに」


「ウソ、私のこと、怒らせたら怖い女だと思ったでしょう」



あはは……と笑ってごまかして、彼女の肩をギュッと抱いた。



「俺は好きだけどね」


「私も……」



恋雪は恥ずかしそうに口ごもった。

それでも満足だ。



「俺を好きになってくれてありがとう。感謝してる」


「感謝なんて、そんなふうに言わないで」


「うん、でも本当にそう思ってる。

恋雪がいてくれたから、辛かったことも忘れられた。

その……前の彼女のこと聞かされて、嫌だったと思う。

けど、恋雪が全部わかってくれたから、だから感謝してる」


「そういう意味なら、私も同じ、武士さんに感謝してる。

私のそばにいてくれて、ありがとう……武士さん、好き」


「うん」


「私だけを見てね」



恋雪の甘い声がキスを誘う。

体をよじり顎を突き出す恋雪の顔を両手ではさみ、ゆっくり唇を重ね、柔らかな感触を味わいながら重なりを深めていった。

薄く開けた目が、微かに部屋の隅の様子をとらえる。

二匹のマンチカンが、キャットベッドで寄り添っていた。

丸く小さな体を見ながら、恋雪の背中を倒した。

コタツの中の足は互いを求めて絡みつき、ニットのすそから忍び込んだ手は、迷わず素肌にたどりついた。

あらわになった肌に顔をうずめ、胸の丸味を唇で確かめながら愛情をそそぐ。

冬の暖かな部屋で、ただひたすらに恋雪を求めた。

< 142 / 158 >

この作品をシェア

pagetop