世界で一番好きな人
第2章 緩やかな恋

新しい出会い

その日から、しばらくしたある日。
私は、珍しく定時に仕事を終えて、帰路についていた。

いつも通る公園の前の道を通るとき。



「許さない!」



泣き叫ぶような声で、そんな言葉が聞こえた。
木陰から覗いてみると、小学校1,2年生くらいの女の子が、上級生に囲まれていた。
それも、一人に対して、三人も。



「生意気なんだよ。うちのお母さんも言ってたもん。あんたのお父さんは、」


「お父さんのこと、悪く言ったら許さない!!」



上級生に、決然と言い返す女の子。
きゅっと結んだ口元と、泣きそうに歪んだ目。



「私知ってるよ。この子、お母さんがいないから、」


「ちがうもん!お母さんはいるもん!!」


「へえ、どこに?」


「連れて来てよ。」



小学生だからこその残酷さで、その小さな女の子は確実に追い詰められていた。
可哀想になって、私は木陰から、そっと近付いた。



「どうしていじめるの?」


「誰?」


「別に、いじめてないし。」



突然現れた私を、邪魔そうに見上げる上級生たち。



「人のおうちのことを色々言うのは、お姉さんとしてよくないことよ。」


「なんで?」


「私も、お父さんがいないからっていじめられたことがあるの。すごく悔しかったし、悲しかった。だって、それは自分が望んだことじゃないもの。」



無言になったその子たちに、私は微笑みかけた。



「だから、そんなふうに責めたら駄目。悪いことをするとね、誰も見ていないと思っても、ちゃーんとお天道様が見てるのよ。」



三人の上級生は、顔を見合わせると言葉もなく去って行った。
後には、いじめられていた子と、私の二人が残される。



「……グズ」



見ると、精一杯強がっていたのか、その子が泣き出した。
小さな肩を震わせて。
その小さな体から、悔しさが滲みだしている。



「いつもあんなこと言われてるの?」



小さく頷く。



「そっかー。嫌な子たちね。」



胸に引き寄せると、私の腕の中でしばらく泣いていた。

その温もりが、なんだか愛おしくて。
私は自分の小さな頃を思い出した。

父親がいなかった私は、よくからかわれたんだ。
何で保護者の名前を書くところに、母親の名前が書いてあるのか、とか。
私はその度に、寂しい気持ちになった。
顔さえ覚えていない父親のことを想って、泣く夜もあった。

その頃の切なさを、少しだけ思い出した―――
< 14 / 39 >

この作品をシェア

pagetop