真夏日の幻影
幻影
学校から帰宅すると、玄関に兄のスニーカーと見知らぬピンク色のパンプスが脱ぎ捨ててあった。
とうとう奴にも春が来たらしい。暦の上ではもう秋になるが。そう思いつつも、気を遣ってやろうと、二階には上がらずリビングの扉を開けた。
どうせ自分の部屋であれこれやっているのだろうと考えながら、荷物を下ろすべく静かなそこに足を踏み入れたのだが、ソファからはみ出した4本の足を見てぎょっとする。
ソファの傍に、かわいらしいワンピースと兄が今朝穿いていたジーパンが落ちていた。その向こうに男物の下着が1枚、2枚。
気がつくと、息を切らせて近所の公園の真ん中に立っていた。頭が残暑にやられてしまったのだろうか。
教科書の詰まった鞄がやたら重い。