「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
004:となり
「誰だ?」

「今度の新入りさんは予想通り元気が良いな。
ここ、こっちだ!」

あたりを気にしているのか、ひそめた声と共に、隣の牢から長い腕が差し伸ばされているのが、セスの目に映った。



「君…ちょっと牢の奥の方まで移動してくれるか?」

一段とひそめた声が小さく響いた。



「奥に…?」

顔も見えない男の声に従い、セスは言われるままに牢の奥へ移動する。



「わっ!」

牢の壁の一部が突然はずれたことに、セスは驚き短い叫び声を上げた。



「心配しないで大丈夫だ。僕だ。
隣の部屋のライアンだ!」

薄暗い牢の小さな開口部からでは、その顔をはっきりと知ることは出来なかったが、低いが張りのある声の雰囲気からしても、まだ若い青年のようだった。



「俺は、セス。
なぁ、一体ここはどうなってるんだ?
なんでこんなことに?」

「事情を知らないってことは、もしかして君は旅人なのか?
君も大変な時に迷いこんだもんだな。
良いか、今この城では大変なことが起こっている…君…ここのことをどのくらい知っている?
ルシアン様のことは知っているか?」

「ルシアン様?
いや…俺はあいにく何も知らないんだ。」

「ルシアン様のことを知らないとは…君はずいぶんと田舎から来たんだな。
いや、失敬。
ルシアン様というのはこの国の王妃様だ。
そして国王がラーシェル様。
少し長い話になるが聞いてくれ。」

ライアンはこの国に起こった空の異変のこと、そして、その危機を回避するためにルシアンが搭に篭ったこと、そのおかげで空の異変はおさまったことをかいつまんで話した。



(一体、彼は何の話をしてるんだ?
この国でそんな異変が起きたことなんてない…
王族もとっくに滅びている…なのに、なぜこんな話を…
……まさか…まさか、ここは俺が生まれるよりもずっと昔…過去の世界だとでもいうのか!?)



「……セス、どうかしたのか?」

「あ…い、いや、なんでもない。
……それで、どうしたんだ?
異変がおさまったらそれで問題ないんじゃないのか?」

セスは、平静を装い、言葉を続ける。
牢が薄暗いことで、セスはライアンに心の動揺を悟られずにすんだことに安堵した。
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