「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
011:涙する隠者




「父様!」

「父様、しっかりして!」

父親の身体に取りすがり、ジュネとラークは泣き叫ぶ。



「なんということ……私のせいだわ…」

ターニャは、しゃがみこみ顔を覆って泣き出した。



ラーシェルの容態は誰が見ても、もう手の施しようのないものだった。
今にも消えてしまいそうな命の灯火を燃やしながら、ラーシェルは満足そうな笑みを浮かべ、何かを言いたげにその唇が動きかけた時、ラーシェルの瞼が閉じ、ジュネが握った手から力が抜けた。



「父様!」

「父様ーー!!」

一際大きな子供達の声の裏側で、他の者達の押し殺した嗚咽が響く。
もう少し早くに気づく事が出来れば、もう少し早く動くことが出来ていればと兵士達は悔しさに身を震わせ、ターニャは自分の魔法が不完全だったことを激しく責めた。



「ジュネ…ラーク…時間だ…」

その声は二人にしか聞こえず、もちろんその姿も他の者達には見えなかった。



ラーシェルの身体にしがいみつくように身を伏せ、首を振るラークの手を、ジュネはしっかりと握った。



「ジュネ…これは決められていたことなの…
天の門を開いていられるのはわずかな時間だけ。
それを承知でここに来たんでしょう?」

涙を拭ったジュネが、不思議な程冷静な声で、ラークを諭すようにそう言った。



「でも…父様が…父様が…」

涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ラークは懸命にまだこの場にいたいことを訴える。



「……行きましょう…」

ジュネの翼が大きく広がり、羽ばたきが始まるとその身体がふわりと地上を離れ、それにつられるようにしてラークの翼も広がった。



「父様…父様ーーーー!」

ラークは地上に横たわる父親に向かい、片手を伸ばして泣き叫ぶ。
ジュネは、弟の手をしっかりと握り締め、ただ上だけを向いて羽ばたいた。
空へ上って行く二人を、ギリアス達はなす術なく呆然と見上げるだけだった…




「……辛いことが起きてしまったな…」

立派な翼を広げた天界人が、二人を優しく抱き締めた。



「……さぁ、戻るぞ…」

二人より少し先を飛ぶその者の瞳にも、きらりと光る涙の粒が浮かんでいた。
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