イージーラブじゃ愛せない
これでも8ヶ月は一緒に居たんだ。胡桃の気紛れやワガママは心得てる。それが数時間経てば収まるものなのか、1日経てば治るものなのか。
だからこそ、まっすぐ俺の目を見て言ったそれがいつもの気紛れじゃないって事が分かってしまって。
俺は、自分の声が震えるのが分かった。
「なんで……?俺、そんなに胡桃を怒らせる事した?」
信じられない想いで鼓動を乱す俺とは対照的に、胡桃は炎天下の下で凍りつきそうに冷ややかな表情を浮かべる。
「別に。もうジョージと寝るの飽きた。あんたのベッド、硬くて寝心地悪いし」
「意味分かんない。ねえ、ちゃんと言ってよ。こんなんで別れるとか、俺イヤだよ?」
そして最後に。
胡桃は俺の息の根を止めるように笑う。
「別れるも何も、私たち付き合ってないでしょ」
ボーゼンと立ち尽くす俺に、置き土産のように言い残して胡桃はひとり夏のアスファルトを歩いていった。
「私たち、元々ただの友達じゃん」と。
煩い蝉の声に掻き消されそうになりながら残された声は、いつまでも俺の耳に木霊した。