イージーラブじゃ愛せない


振り返ればそこに見えるのは決して不透明じゃなかった柴木胡桃の心。

そして、浮かれてばかりで何ひとつ見えていなかった自分の馬鹿さ加減。


年末に向けて徐々に彩られていく街並みが1年前の記憶を呼び起こし、またひとつ俺は胡桃の落としていた心を見つける。

胡桃が甘える事が多くなった冬。そのきっかけも理由も、決して気紛れなんかじゃなかったって。

初めて彼女からキスをしてくれた時に。うちにしょっちゅう泊まるようになった時に。幸せそうに笑った笑顔の側には必ず『ただいま』があったって。

俺が『おかえり』って返すといつも満足そうに笑ってた。

単なるカップルのお遊びじゃなかったのかもしれない。胡桃にとっては。


……どうしてそんな簡単なことにも気付いてあげられなかったんだろ。


そして、どうして『ただいま』と『おかえり』がそんなに嬉しかったんだろうなんて、ちょっと考えてみれば辿りつく答えも段々見えてきて。

それが正解なのかは、もう分かんないけどさ。

けれど、自分がどれほど胡桃の心に無頓着で傷付けてきたかは痛いほど分かってきちゃって。


12月の街は華やいで賑やかだというのに、俺は後悔を紡ぐばかりで。まだまだ切なさと向き合う時間は終わりそうに無かった。


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