イージーラブじゃ愛せない


「バッカ野郎!男の俺が胸張ってやんなきゃ早苗さんが安心して飛び込めねえだろうが!こーいう時はな、無理してでも胸張るんだよ。男ならそうすりゃ結果は付いてくる」


冬の澄んだ空気と除夜の鐘が入り混じりながら耳に届いたそれは、俺の胸の中の何かをぎゅっと掴んだ。


そっか。

あーそっか、そうだよな。なんで俺――――


「……親父」

「ん?」


俺はさっきより強く膝に顔を押し付けて、くぐもった声で呼び掛ける。


「やっぱ親父すげーよ。尊敬する。俺の親父になってくれて、ありがとうな」


突っ伏してたうえ涙に詰まった声だったから、きちんと親父の耳に届いたかは分からない。

でも、親父は黙って俺の頭をワシワシと撫で続けてくれた。身長もとっくに抜かした図体ばっかり大人の俺を、子供を慰めるみたいに、ずっと。





――――大人になりたいと、思った。



いい歳して何言ってんだと思うけれど。本当に俺は心の底からそう思ったんだ。


気持ちを押し付けるんじゃなく、受けとめられる大人になりたい。

相手が飛び込むのを躊躇しないように、胸を張れる覚悟が欲しい。


気楽な子供のままじゃ駄目なんだ。

男にならなきゃ。大人にならなきゃ。本気の恋愛なんか出来ない。



しんしんと冷え込む冬の夜。
新しい年を迎えた夜空を見上げて強く思う。



胡桃のこと、もっとちゃんと愛したい。

必ず成長してみせるから。だから今度こそ。


今度こそ、全部受けとめてみせる。





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