イージーラブじゃ愛せない


「……帰る」


表情を見られないように顔を背け胡桃は呟いて、そのまま玄関へと向かって行った。

そして俺はやっぱり自分の浅はかさにガッカリする。


「今更じゃん、そんなの」


玄関でショートブーツを履きながらそうボヤいた胡桃の言葉に、自分でも情けなく同意した。


だよな。胡桃にとってはもう終わった事なんだ。もしかしたらもう成瀬さんと付き合ってるかも知んないし、俺に未練なんかとっくに無いのかも知んない。


そう思って「だよね」と返そうとした時。


「あとちょっとでさよならのくせに」


ブーツを履きながら俯いて言った胡桃の言葉に、俺はハッとさせられる。


「……俺は、さよならだと思ってないから。俺は離れたって絶対柴木ちゃんの事が好きだしずっと大切に思える。そんで、離れてたってどんな時だって、柴木ちゃんのこと受けとめて見せるから。柴木ちゃんの抱えてるものも全部。寂しい気持ちも、全部!」


今度こそ、ちゃんと拾う。胡桃の本音を。

素直にこちらを向けない気持ちは『今更』だからじゃない。もうすぐ離れてしまうのに、心を揺らさないで欲しいって臆病で寂しい胡桃の本音だ。


そして、その拾った本音の欠片が間違ってなかったと。振り返った胡桃の表情が告げる。
 
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