イージーラブじゃ愛せない


「正直、言われなきゃ分かんない事もいっぱいある。俺、馬鹿だと自分でも思うし。でも、柴木ちゃんがどうして言えないかまで今まで考えた事なかった。俺が情けないから柴木ちゃんは口を噤むんだって。気付けなくて本当にごめん」


振り返ったって、やっぱ未だに分かんない事もいっぱいある。でも、その気持ちを『見えない』と片付けていたのは俺だ。

こんなに意地っ張りな子を好きになったのに、どうして俺はその心を拾ってあげようとしなかったんだろう。

胡桃の甘えは、寂しさは、ヤキモチは、切なさは、いつだって全部どこかに落ちていた。ささやかな表情に、何気ないしぐさに、強がる言葉の裏に。


「『好きだ』って言いながら、全然分かってあげられてなくてごめん。頼れない情けない男でごめん。『大切』って言いながら、いっぱい傷つけてて、本当にごめん」


どんどん無防備になっていく胡桃の表情に、俺は耐えられなくなってそっと右手を伸ばし頬に触れた。

その感触に、胡桃の表情がさらに無防備になり瞳に泣きそうな色を浮かべる。


その顔はなんだかこちらの胸までギュウギュウと締め付け、俺まで涙が出そうになった。けれど、それをこらえ優しく微笑みかける。


「好きだよ、今でも。簡単になんか絶対忘れらんない。だから、今度こそ――」


そこまで俺が紡いだ瞬間。胡桃はハッとした表情をすると俺の手を振り払って立ち上がった。
 
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