黄昏の特等席
「それに・・・・・・」

 エメラルドはグレイスと視線が合うように、顔を近づけてくる。

「な、何・・・・・・?」
「君がどんなに嫌がっても、私は引くつもりなんてない」

 エメラルドがグレイスを好きなように、グレイスにもっと自分のことを好きになってもらいたい。
 手放す気が全くないので、グレイスが少しでも自分から離れようとすると、エメラルドはそのときどうするのか考えている。

「どうしてよ・・・・・・」

 そこまでする必要がどこにあるのか。第一、エメラルドが自分にそこまで夢中になるなんて、思いもしなかった。

「時間はある。私のことを好きになってもらうようにしないとな」

 エメラルド自身、手荒な真似をして、好きな女を手に入れたくない。どうせなら、グレイスから自分に歩み寄ってくれるのが嬉しい。

「どんなに時間があったとしても、私は溺れたりしないから」

 恋に溺れるより自分に溺れてほしいことをエメラルドは考えていた。

「それがいつまで続くのか、楽しみだな」
「途切れたりなんてしない」

 そんな考えすらできなくなるよう、エメラルドはグレイスの心を溶かす気でいる。

「私は諦めたりしない」
「情熱的ね・・・・・・」

 棒読みで言ってきたので、エメラルドの口元が僅かに緩んだ。

「そうだな。相手が君だからだ・・・・・・」
「許可なく、勝手にキスをする人を好きになりません!」

 グレイスが怒っても、エメラルドは全然反省していない。
 食事が終わって仕事をしているときも、グレイスはエメラルドに話しかけることなく、ずっと仕事に集中していた。
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