黄昏の特等席
 専門店ができたのは複数なので、エメラルドも興味を示している。
 今はまだどこもオープンしたばかりでたくさんの人達が足を運んでいる。落ち着いたら、グレイスをそこにも連れて行くことも考えている。

「いろいろなところへ行って、思い出作りをしないとな」
「そうだね」
「そうなると、アクアとデートができるな」

 彼が言ったことに動揺していると、エメラルドはグレイスをじっと見ている。

「・・・・・・ちょっと待って!」
「何だ?」

 会話の流れからすると、グレイスとエメラルドがまるで恋人同士のように聞こえる。

「さっき、私達は何をしていた?」
「そ、それは・・・・・・」

 キスのことを思い出したグレイスはエメラルドから離れようとした。
 しかし、それを彼が許すはずなく、エメラルドはグレイスの腰を引き寄せる。

「前にも言ったことを忘れた?」
「何のことだ?」

 グレイスが恋愛について良く思っていなくて、誰ともそういう関係になりたくないことをエメラルドに言った。
 もちろんエメラルドはそのことを忘れてなんかいない。

「私達は・・・・・・」

 恋人同士でないことを告げる前にエメラルドが先に言った。

「だったら、どうして拒まなかった?」
「それは、その・・・・・・」

 身を捩るなりして抵抗しようと思えば、いくらでもできた。
 グレイスは後ろに下がろうとしただけで、その後は徐々に全身の力を抜いた。

「理由は簡単だ。嫌ではないから」

 普通好きでもない異性にそんなことをされたら、誰だって黙って受け入れたりしない。
 グレイスが抵抗しなかった上、キスが終わった後も罵声を浴びせることも叩くこともしなかったので、エメラルドに好意を抱いているということになる。
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