黄昏の特等席
ペンダント
 紛れてしまった本を抜くために引っ張り出すと、別の本まで落とした。それらを拾おうとする彼をやんわりと断り、収納していく。
 残り数冊になったとき、見覚えのある本に思わず手を止める。

「あれ?」
「今度は何だ?」
「あの、これ・・・・・・」

 いつだったか、主がグレイスに貸してくれた小説が置いてあった。
 
「こんなところにあったんだな」
「この本・・・・・・」

 主はしばらくこの本を見なくなったので、見つけたら届けるように頼まれていたようだ。

「読んだことがあるのか?」
「うん。何度かね」

 これは彼の私物なので、エメラルドは届けに行こうとした。

「君は仕事をしていなさい」
「あの!」

 背を向けようとするエメラルドに声をかけた。

「何だ?」
「その・・・・・・私が届けに行ってもいい?」

 主の部屋の場所を知っているので、迷子になることはない。
 けれど、エメラルドは自分で届けることを言い、グレイスに頼まなかった。

「主を篭絡するつもりなのか?」
「そんなことしない」

 ただ本を届けに行くだけだと言っても、彼はそれを疑っている。

「本当よ。本当に届けるだけだから・・・・・・」
「どうだか・・・・・・」

 本を届けることを口実として、主を篭絡することを考えるエメラルドに背中を向けると、また正面を向かされた。

「・・・・・・何?」
「主を篭絡しないのなら、君にこの本を預けるよ」
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