黄昏の特等席
 押しつけるように本を渡され、それを受け取ったグレイスは彼に何も言わずに出て行った。
 エメラルドにいつもより棘のある言い方をされ、グレイスは苛立ちを隠すことなく、彼の部屋に向かっている。

「どうしてあんな態度を取るの?」

 少し前は刺々しくなかった。むしろ甘い雰囲気に包まれていたのに、それが嘘のように思えてしまう。
 主の話になると、エメラルドの機嫌が悪くなり、その結果がこれだった。距離が縮んだかと思ったら、以前よりも離れてしまったように感じてしまう。

「あの・・・・・・」

 突然発した声にグレイスはぎくりとする。
 声の正体は背後から近づいてくる見知らぬメイドで、一体何の用なのか気になり、足を止める。

「あの、すみません・・・・・・」
「何でしょうか?」

 彼女がグレイスの声を聞いて肩を震わせたので、怯えさせたのかと考える。
 苛立ちが無意識に声に出ていたのか、さっきより柔らかい声を出すことにした。

「何かトラブルでもありましたか?」
「実は・・・・・・」

 遠くで怪しげな音を耳で何度も拾ったので、それを伝えに来たようだ。

「どんな音ですか?」
「何かをぶつける・・・・・・鈍い音がしました」

 気になったので彼女にその場所まで案内を頼み、一緒にその場所へ向かった。
 彼女の言う通り、何度も音が響いていて、音だけでは誰が何をしているのか、判断が難しい。

「誰か、いますよね・・・・・・?」
「そうですね・・・・・・」
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