黄昏の特等席
「あの、あなたのことを何とお呼びすれば・・・・・・」

　グレイスはまだ名前を聞いていないことを伝えると、男が名乗る。

「私はエメラルド。ここで仕事をしている」
「ここでですか？」
「そうだ」

　こんな素敵な空間で仕事ができるなんて、エメラルドは幸運だ。

「羨ましい・・・・・・」

　呟いたグレイスの声をエメラルドの耳はしっかりと拾っていた。

「だったら、ここで一緒に働くか？」
「い？」

　彼の提案にきょとんとして見ていると、エメラルドはにっこりと笑みを浮かべ、グレイスの髪を撫でる。

「図書室で仕事をしたいのだろう？」
「はい」
「だったら、上の者に話すことにしよう。許可してくれるだろう」

　嬉しくて笑みが零れる。図書室に初めて来たので、どこにどんな本があるのか、全く知らない。
　それを知ることができるかもしれないので、顔が緩む。

「本が好きなんだな」
「はい、とても！」
「これから一緒に働くのだから、私とも仲良くしてもらいたいものだな」

　エメラルドの唇がグレイスの耳に触れたので、目を閉じて後ろに下がると、壁にぶつかった。
　大きな影に包まれて不安になっていると、さらに彼が距離を縮めてくるので、グレイスは逃げようとした。
　しかし、肩を掴まれて後ろに引っ張られた。後ろからエメラルドに抱きしめられて、一人でパニックになっていると、大笑いされた。
　果たしてこんな男と同じ時間を過ごして無事でいられるのか、グレイスは不安と頭痛を覚えた。
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