黄昏の特等席
「主に好意を寄せているから、嫌がったのか?」
「違う」

 その一言だけでエメラルドは納得しない。

「・・・・・・本当に?」
「本当に違う。そうじゃない」
「違うんだな・・・・・・」
「そうよ。私は・・・・・・」

 大きく息を吸い込んでから、言葉を続けた。

「恋愛なんてしたくないの・・・・・・」

 異性に振り回されるなんて、絶対にされたくない。

「・・・・・・どうして?」
「嫌だから・・・・・・」

 グレイスは本を片手に持ち、エメラルドに背中を向けて、奥の書架まで歩いて行った。エメラルドはグレイスの背中を見届けてから、書架から引っ張り出した本を読み始める。
 グレイスは食事のときでさえも、本を邪魔にならないように、テーブルの上に置いていた。食事をした後に読む本で、その本は日によって違う。今日持ってきた本は鳥類図鑑。

「君は動物を飼ったことがあるか?」
「ううん、ないよ」

 近所の友達が数人動物を飼っていて、遊びに行ったときに抱っこさせてくれたことを思い出した。

「抱っこしたのは何だ?」
「犬だよ」

 とても小さくて、抱っこする前は不安だったが、一度抱っこすれば、それはなくなった。

「エメラルドは何か飼ったことがあるの?」
「今、飼っているな」
「それは実家でだよね?」

 もしそうだったら、彼の親か兄弟が世話をしているのだろう。

「いや・・・・・・」
「違うの?」
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