黄昏の特等席
「アクア」
「あっ・・・・・・」

 エメラルドの声が正面からして、グレイスは開いていた本をうっかり閉じてしまった。

「ああっ!」
「どこかわからなくなったな・・・・・・」
「はぁ・・・・・・」

 楽しそうに言うエメラルドを放って、グレイスは工学書と睨めっこをしている。
 仕事をしていて、普段あまり読まない本もたくさん読むようになった。難しいと思うこともわからないと思うことも増え、それと同時に知らないことを知ることができる喜びも感じる。

「君は本を読むときなど、好きなことをするときは本当に嬉しそうだな」
「そんなに顔に出ている?」
「出ているな」

 じっと見つめられ、恥ずかしくなったグレイスは工学書に目を向ける。

「私との相性は悪くないと思うがな・・・・・・」
「仕事の相性?」
「いや・・・・・・」

 エメラルドは隣に座ってきて、グレイスの顎を持ち上げる。

「恋愛の」

 そのまま顔を寄せて、互いの鼻先が触れ、さらに近づこうとするエメラルドから、グレイスは慌てて離れた。

「何するの!」

 グレイスが抵抗しなかったら、確実に唇が触れていた。

「どうして怒るんだ?」
「いきなり近づいてきたから・・・・・・」

 恋人でもないのに、キスをするのは問題がある。
 グレイスがそう考えていても、エメラルドは悪いとはこれっぽっちも思っていない。
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