黄昏の特等席
 恋人同士だったら、何も問題はないが、グレイスとエメラルドは上司と部下という関係だ。
 機嫌を直すように言っても、彼は不機嫌のままなので、グレイスの頭を撫でてくれたように、彼の頭を撫で始めた。

「アクア?」

 エメラルドが戸惑っていても、グレイスがひたすら撫でていると、彼はその手をやんわりと掴んだ。

「どうも君は私のことを子ども扱いしたいようだな」
「それは・・・・・・」

 反論しようとしたときに手を引かれ、その手に唇を押しつけた。

「子ども扱いした罰」
「もう・・・・・・」

 解放された手ともう片方の手を胸の前で重ね合わせた。

「そろそろ仕事をしよう」
「もう少しくらい、触れたかったな・・・・・・」
「さて、仕事をしないと!」

 彼の独り言を聞き流して、今日する仕事の確認をする。
 これから始める仕事は不要になった本の片付け。明らかに本が変色していたり、傷んでいる本があれば、それらを廃棄本として分ける。

「本の数が多いから、結構時間がかかるね」
「そうだな。これだけあるからな」

 グレイスが手に取った本は背表紙がすでに汚れていて、息を吹きかけると埃が飛び散った。
 中身を見ると、文章を読むことができないくらい、汚損の激しい本。

「わからない・・・・・・」
「何がわからないんだ?」
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