黄昏の特等席
「仕事の時間なのに・・・・・・」
「まあまあ、これらは人気が高いものだ」

 こんなことを本当に許していいのだろうか。
 そう思っていても、彼がこういうものを最初に持ってきたときから、一緒にティータイムを楽しんでしまっている。

「飲んだことがあるの?」
「あるな」

 回数は他のものより少なくて、お茶請けとして持ってきてくれた焼き菓子はグレイスもエメラルドも初めて食べるもの。

「菓子ね・・・・・・」

 ちょうど家政学、生活科学の書架の近くに立っていたので、その中にある『洋菓子大事典レシピ』を手に取り、その場でページを開いた。
 家庭で楽しく作ることができる洋菓子が多数載っていて、ページを捲っている途中でザッハトルテを見つけた。
 その洋菓子は昔、何回か食べたことがあり、その度に大切な人と同じ時間を過ごした。

「それ、好きなのか?」
「う、うん」

 我に返ったグレイスは慌てて首を縦に振った。

「昔、簡単な洋菓子を作っていたよ・・・・・・」
「・・・・・・どうして作ったときに私を呼ばなかったんだ?」

 またエメラルドが無茶なことを言い出した。

「どうやって呼ぶの?」
「普通に」

 エメラルドと出会ったのはこの屋敷にある図書室、洋菓子を作っていたのは実家で、エメラルドの存在すら知らなかったときだ。
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