いつでも一番星


ついつい心が不安に支配されそうになるけど、慌てて気持ちを切り替えてカバンから友チョコを取り出す。

ワックスペーパーで包み、オレンジ色の紙袋でラッピングしたナツくんへの友チョコ。

それに決意の目線を送ると、ナツくんに声をかけようと、勢いよく息を吸い込んだ。

……だけど。


「あの、ナツくん! ……って、あれ?」


重い頭を上げて見据えた視線の先には、ナツくんの姿はなかった。

代わりにわたしの正面には、腰に手を当てて呆れ顔でこちらを見ている茉理ちゃんがいる。

想定していた光景とは違い、面食らって目をぱちくりさせた。


「な、ナツくんは……?」

「ナツなら、とーっくの前に行ったよ」

「えっ、嘘!」


茉理ちゃんの口から飛び出した言葉が信じられなくて、慌てて辺りを見渡す。

だけどホールにもそこから教室棟に続く廊下にもナツくんの姿は見当たらなくて、茉理ちゃんと一緒にいたはずの横峰くんまでもが消えている。

言われたことが事実であると思い知らされた。


「もう、雫ってばなにやってんの! 挨拶したあと、ナツが去ったことにも気づかずにぼーっと俯いちゃってさ」

「ううっ……」


渡さなきゃと思って頭の中でいろいろ考えていたのだから、ただ単にぼーっとしていたわけではない。
だけど、それを弁解する気も起こらなかった。

だって俯いていたのは確かで。その間にナツくんたちが去ったことにも気づいていなかったわたしが間抜けなこともまた事実なんだ。


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