梅酒で乾杯
あんなに素敵に思えた空間なのに、急に落ち着かなくなって。
もう自分がなんの話をしているのかわからなくなった。小さな震えが止められない。

亘はそんなあたしの変化に気付いたのか、十分もしないうちに「やっぱり帰ろう」と言った。


優しい亘。

でも、気づいてしまった。

亘はずっと、あたしに合わせてくれていたんだ。あたしが息をしやすい、ゆったりしたスピードに。

だけど社会人になって、自分では変えられない流れの中に入って、その中で亘は生きている。
ゆっくりな私を置いていかないように、何度も何度も振り返りながら。

ただ離れていくだけの距離を必死で繋ごうとしてくれている。
だけどそんなの、長く続くはずが無い。


……それは予感のようなものだった。

亘は何も変わらず、優しくて温かかったのに。
確かに変わっていくだろうという予感のようなものをあたしは感じてしまった。


帰り際、亘が小さく手を上げた。
振り返ると先ほどの高里さんがこちらを心配そうに見ている。

あたしもペコリと頭を下げると、彼女は応えるように会釈した。


「ごめんな。うるさかっただろう」

「ううん。あの人、……高里さん? が上手く言ってくれたし」

「ああ、そうだな。……彼女、静かだけどムードメーカーなんだよ」

「ふうん」


静かな湖面に風で波がたつように、あたしの胸に波紋が広がっていく。

何が起こったわけでもない。
それでも、あたしには止められない何かが動いているのを感じずにはいられなかった。


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