恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜

「おい! 山田、戻って来い」
ドアを開けて、手招きする課長。


「……まだ、何か?」

課長の前に来ると、課長が私に何かを渡して寄越した。


見ると、乾麺の蕎麦だった。


「あの、これ? 悪いですよ。引っ越してきた私がお蕎麦頂くなんて……」

「誰がお前にやると言った? 交換が無理なら……山田、茹でて来い」

わが耳を疑った。

ーーー茹でて来い? まるで当たり前な仕事みたいに言ってるけど……なんで私が蕎麦を茹でて来るの?


「いやぁ、意味がさっぱり……」


「相変わらず、ものわかりが悪いな。いいか、一度しか言わない」

ボサボサ頭のくせに課長は、早口でまくし立て始めた。
「山田、お前は今から家に戻り、鍋に湯を沸かし乾麺を茹でて、出来上がり次第速やかに俺の家に持って来い」


「えっと、どうして私が?」


「お前は、いちいち仕事を与えられて、どうして私が?って考えるのか?」


「……いえ」


「だろ? なら、走れ」


「走るんですか?」


「山田〜〜〜」
眉間に皺を刻む課長。


「走りますよ! 走ればいいんですね!」
走り出してから、すぐに駆け足で課長の前に戻った。


「課長!」

「まだ、なんかあるのか? 山田」

「ダンボールを開けてなくて……鍋がすぐに見つからないと思います」

呆れ顏の課長。

「山田」

「はい」

「入れ」課長が体を壁の方へ寄せて、親指を立てて、くいっと中を示した。

「あの? 課長の家にですか?」

< 8 / 223 >

この作品をシェア

pagetop