きみと世界が終わるまで



じゃあ、と挨拶をして去ろうとした僕を、おばさんが呼び止めた。


「優太くん」


歩み始めた足が止まる。


その場に立ち止まったまま振り向くと、おばさんは少しだけ目を細めて微笑んでいた。


「言いづらいんだけどね。優太くん、これからも恋をしなさいね」


分からなかった。


おばさんの言いたいことが、理解できない。


「無理にとは言わないけれど。娘のことをずっと引きずらないでいいからね。もし優太くんにこれから好きな人ができたのなら。その時は、ね」


いや、本当は分かっている。


おばさんが言いたいこと、頭では理解している。


けれど心が理解してくれない、拒んでいるんだ。


せめて、せめて。


きみがいないときに言ってほしかった。


ゆりあがこの言葉を聞いていないことを本気で願ったけれど、いくらなんでも無理がある。


だってゆりあは今も僕の隣に、すぐ隣に、立っているのだから。


──僕には、ゆりあだけしかいませんから。きっとこの先ゆりあ以上に好きになる人は現れません。


これが僕の本心で、本当はこう言いたかった。


でも僕は子どもじゃない、対抗することを言ってしまってもきっとおばさんを困らせてしまうだけだとそう判断した僕は。


「……ありがとうございます」


と笑って大人の返事を返した。


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