不良リーダーの懸命なる愛

王子サマ

私たち三人は一斉に首を縦に振ってヤスさんに応えた。


そんな私たちの反応を見たヤスさんは、クスッと微笑む。


「ちなみに昨日、理人が図書室にすごい勢いで来たんじゃないか?」


「えっ!?どうしてそれを知ってるんですか!?」


と、唯ちゃんがすかさず答えた!



私もヤスさんも、その反応の速さに唯ちゃんを凝視してしまった!


「あ!す、すみません……!」


俯いた唯ちゃんの顔がみるみる赤く染まっていく…。


「ハハッ。鳴瀬さんの友達は面白い子ばかりだね!」


ヤスさんにそう言われると、
ますます唯ちゃんの顔が赤くなって、プチトマトのようになってしまった…!


「それでヤス兄さん!どうして知ってるんですか!?」



ち、ちーちゃん……。



同級生なのに “兄さん”って …。



「ん?あ、そうそう。実はさ、昨日の放課後、屋上に俺と理人が居てさ、なんていうのかな……避難してたわけ。」


「避難?」


意味がわからず、小首をかしげた。


「そう、女子からね。特に理人は学校に来ると、決まって追いかけ回されるからね。もうあれは習慣だな。」



そ、そうなんだ!



凄い習慣だな~。



やっぱり人気者は違う!


「そんなわけで人が来ない屋上で俺らが昼寝しててさ。そしたらクラスの奴が来て、准平を見なかったか訊かれてさ。なんか合コンだったみたいで、その幹事の准平が居なくなっちまったんで、そいつが焦っててさ。」



あ!



そういえば昨日准平くん、そんなこと言ってたような……。




「で、タイミング良くそん時に准平からメールが来てさ。


【件名:無題

ヨシミに捕まってこれから図書室の掃除!

うぇ~。

でもすぐ逃げだすからまってろよ!

by ジュンペー】


それ見た理人が血相変えて飛び出して行っちゃったってわけ!あの時の理人はマジで凄かった!女子に見せてやりてぇー、あの姿!ハハハッ」


ヤスさんはそう言って笑い出してしまった。



「…ということは!霧島王子は咲希が図書委員の当番だということを知ってたってわけですね!?それで咲希を猛獣から救い出しに行った!!そういうことですよね、ヤス兄さん!」


ちーちゃんが勢いよく立ち上がってヤスさんに話しかける。


「アハハハ!理人は王子ってガラじゃねーよ!!それに准平が猛獣……アハハハ!君、面白いね!」


「すごい!!なんか本当のおとぎ話みたい……!素敵っ!!霧島くんは颯爽と現れる白馬の王子様で、咲希ちゃんはその助けを待つお姫さまか~。」



あ、あの~。




もしもし?




私はあまりよく理解してないのですが……?



ヤスさんは笑いが止まらないみたいでしゃがみ込んで笑ってるし、


ちーちゃんはそんなヤスさんにまくし立てるように質問してるし、


唯ちゃんは唯ちゃんで何だか独りの世界に入っちゃってるし。



えっと~、



確かこれは内緒話だったはず……。




それが中庭にこだましてるこの現状って……



いったい…。





~♪




あれ?




なんか鳴ってる?



するとヤスさんが笑いながら胸ポケットにある携帯を取り出した。


どうやら電話みたい。


するとヤスさんは笑い過ぎてあまり声が出ないのか、か細い声で電話に出た。


「も…もしもし………り、理人か。…な…なんてタイミングなんだお前………クククッ。」


「え!!霧島王子っ?!」


「ブハッ!笑わせんなって!や…やっぱし……奴のイメージに…合わねー……アハハハッ!」



ちょっ、ちょっと?!



ヤスさんが笑いで話せなくなってるよ!!



私は唯ちゃんにさっきの話を詳しく説明してもらっていたため、

ヤスさんの電話の相手の名前を聞きそびれてしまった!




『おい!ヤス!返事しろっ!てめぇ、何処にいんダヨ?』




ヤスさんの携帯は床に転がっていて、携帯から声がかすかに聴こえてくる!



もう、こうなったら!



私は咄嗟にヤスさんの携帯を拾い、相手に事情を説明することに!


「あ、あの、こちらヤスさんの携帯なんですが、彼は只今ちょっと取り込み中でして!落ち着いたら、こちらから折り返しお電話を差し上げたいと思います!ご無理を言って大変申し訳ないんですけども、」



ブァハハハハハハハ!!!



ダハハハハハハハ!!



アハハハッ




え”!?



今度は三人全員笑っちゃってるよ!!




『え?!何!?アンタ誰!?』



ハッ!!



うっかり名乗るのを忘れてた!



「あの、私はヤスさんの知り合いの鳴瀬咲希といいまして、」


『な!??咲希……!?えっ!!!なんでヤスの携帯から咲希がっ!!!!!』



ん!?



この声って、まさか。



「もしかして霧島くん…?」


『咲希!!まさかヤスに何かされてんのか!!?恐い思いとかしてんのかっ!!??無事か!!?』


え”!!


なんか霧島くんが誤解をなされている!!


「あ、あの、そうではなくてですね!」


すると、



ヤスさんが “貸して。” と右手を出してきたので、携帯を渡した!


「理人、心配かけて悪かった!ちょっと鳴瀬さん達としゃべってたら遅くなっちまったんだ。すぐ行くからそこで待ってろよ、王子サマ。」



ピッ。




え”!!



通話切っちゃったよっ!!



霧島くん相手に!



ヤスさんって、大胆だな~!



変に感心をしていると…。


「ま、そんなわけで王子サマの機嫌を損ねちまったから俺はもう行くゎ。楽しい時間をありがとっ!」


と、ヤスさんが私達に背を向けて去ろうとしたとき。


「あ。最後に一つだけ、鳴瀬さんに。理人に対して何か想ったことがあれば、ちゃんと怖がらずに正直に本人に言ったほうがいいよ。」


「え?霧島くんに対して……ですか?」


「そう。…大丈夫だよ、理人は。鳴瀬さんを傷つけるような事は絶対しないから。“友達” に対しては熱いヤツだからね、理人は。」


ヤスさんはなぜか意味深に “友達” の部分を強調させた。



それは今の私には何の意味があるのかは、サッパリわからなかった…。



「そうですね。明日霧島くんに会う約束をしているので、その時に色々訊いてみます!」


そう言うと、
ヤスさんは目を丸くして驚いていた!



あ……



もしかして明日の勉強会のこと、本人から聞いてないのかな?



するとヤスさんは優しい微笑みを浮かべて、


「そうだよ。何でも言ってみるといいよ?頑張ってね。」


と、背を向けて左手をヒラヒラとさせながら、

今度こそ行ってしまった……。




「あぁ~行っちゃったね。もっと霧島王子の話をきけるかと思ったのにな~~!」


ちーちゃんが少しぶーたれながらドサッとベンチに腰をかけた。


「でも、強い味方ができたよね!千枝ちゃんの持ち前の声の大きさのおかげだよ!!」


「そ、そっかな?エヘヘ。でもやっぱり恥ずかしいね…。明日から少し自重しないと。」


と唯ちゃんに言われて照れてるちーちゃんだった。



クスッ。


でも、そうだよね。


ちーちゃんのあの声がなかったらヤスさんとこうして話せなかったわけだし!




空を見上げると雲間から日の光が差し込み、私達を暖かく照らしだす。




友達かぁ。





先程のヤスさんの言葉を思い出して、
私は霧島くんとこの先、もっと距離が縮まればいいなと思った。




明日、楽しみだな。




目を閉じてみると、

まぶたの裏で一瞬彼の笑った姿が浮かび、不思議と胸が高鳴った……。
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