不良リーダーの懸命なる愛

目撃

それから数日たったある日。




「咲希!今日バイト休みだったよね?久しぶりに、咲希の家に遊びに行ってもいい?」


ちーちゃんが帰りのHRの前に話しかけてきた。


「うん、もちろん!」


週4日のバイトも今日は休み!


久しぶりに友達と楽しい放課後♪


「でも、毎回ごめんね。弟の面倒見てもらっちゃって。弟がちーちゃんに会いたがっててさ。」


「なぁ〜に言ってんの!そんないまさら!それに、咲希の弟君めっちゃ可愛いし!あれは将来、超絶イケメンに間違いないよ!!」


「あはは!まだ小学3年生だからわからないよ!」



ちーちゃんはよく家に遊びに来てくれて、弟の遊び相手や一緒に夕飯を作ってくれる。


最初は悪いと思って、遠慮してたんだけど、
弟がちーちゃんに懐いたり、ちーちゃんもうちの家族を好いてくれたりで。



もう家族同然な感じで…!



なんだかそれがすごく嬉しく思うんだ!



すると、



「咲希ちゃん、ちょっといい?」


と呼ぶ声が。



話しかけてきたのは、一緒に図書委員をやっている友達の高杉唯ちゃんだ。



「いまそこでね、ヨシセン(吉田先生) と廊下で鉢合わせしちゃって、その……放課後の図書室の受付、今日だけ私達にやってもらえないかって…。」


「え?!今週は私達の当番じゃないよね?」


「うん…。なんか今日の当番のクラスの子が健康診断の再検査に行くことになっちゃったみたいで。それで放課後、ヨシセンと病院に行かないといけないみたいで。」


「でも当番二人だから、もう一人の子は?」


「それが、今日風邪で学校休んでるんだって…。」



はぁ〜、と唯ちゃんはため息をつく。



「ごめんね!廊下でヨシセンに会わなければ頼まれなかったかもしれないのに…」


唯ちゃんが申し訳なさ全開で謝ってくる。


「まったく!ヨシセンはいつも適当すぎなんだよ!咲希や唯ちゃんにも迷惑かけてさ〜!」


ちーちゃんが一番怒っていた。


「唯ちゃんのせいじゃないよ!それに考えてみたら、今週の当番のクラス、ヨシセンのクラスだし、先生も図書委員いないのをさっき気がついたんじゃない?で、唯ちゃんに急いで頼んだんじゃ…。」



ヨシセンは学年主任で、ハツラツとした評判の良い先生だけど、慌てん坊というか。ちょっとぬけてるというか。



そんな感じなんだよね。



でもなぁ。


せっかく放課後遊ぶ予定だったのにな。


ちーちゃんも珍しく部活休みだったのに。



なんかガッカリ……。



はあぁ〜。と、唯ちゃんと二人で盛大なため息をついてしまった。


「そ、そしたらさ!来週の放課後みんなで……そうだな……。あ!勉強とかしない?中間テストも、もう近いじゃない?!で、終わったらパァ〜っと遊ぼうよ!三人でさっ!!」


ちーちゃんが沈んだ私達を気遣ってくれる。


ありがとう、ちーちゃん!


「…そうだね、なんか楽しみ!」


と、唯ちゃんの顔も明るくなった。


「よし!そうと決まれば計画練るぞ〜!というわけで咲希は今日のことは気にせず、図書委員の当番頑張って!!」


「ちーちゃん…。ありがとう!」


そこで『よーし!HR始めるぞ〜』と、先生の声が聞こえてきた。


よし、とにかく任された仕事を頑張ろう!


私は気持ちを切り替えた。






そして、放課後ーー


HRが終わると、
唯ちゃんと一緒に別棟の図書室へと急いだ。


4階の端にある部屋が図書室なんだけど、目的地についた時に、


「あ!いけない!!図書室の鍵借りてくるの忘れてた!」


と唯ちゃんが、しまった!という顔で私を見た。


「あ!そういえば!……でも二人して気づかないなんて、なんか可笑しいよね。ふふっ」


「ホント。もう〜何のために来たのかわからないよね!」


くすくすと笑い合う。


「じゃあ私、鍵とりに職員室に行ってくるから、咲希ちゃんはそこで待ってて!」


そう言って、唯ちゃんがダッシュで階段をおりていく。


すぐ戻ってくるね〜!という声が聞こえてきた。


私は中庭をはさんだ向かい側のいつも使ってるクラスの校舎を眺めていた。


とても静かで、遠くで生徒たちが騒ぐ声も今は心地いい。



はぁ〜、風が気持ちいいなぁ。



平和な時間が流れていた。


しばらくすると…。




「ね〜、理人ぉ〜。あたしと付き合おうよ〜〜!」



ん?




なんだろ今の声。



空耳かな?



と、また外を眺めていると…。




「しつけーな。俺はそんな気ねーんだよ。」



ん?



また声が…。



何処からだろう??


下の中庭へ視線を落とすと、そこには4階から見ても目立つほどの派手な男子と女子がいた。


あの格好はいかにも上級生…だよね…。


距離があるから、あまりよく見えないけど。


「なんでよっ!!中学の時は誘いにいくらでもノッてくれたのに!!高校に入ってから理人、なんか変だよ?!」


「誘いにのるって、それいつの話だよ?それにお前と付き合ってたのは、ほんの一ヶ月たらずだろ。」



な、なんか言い争ってるみたい…。




このままじゃ盗み聞きになっちゃうよ!



でも、そんな私の心情をよそに二人は話をどんどん進めていく。



「なによそれ!そんな短くなかったじゃない!!」


「マジだったらな。…でもお前、他校の奴と二股かけてただろ。」


「え!!!な、なんで…知って……、」


女の先輩が後ずさりするのが見えた。


「それで萎えた。俺、軽いオンナ嫌い。」


「なっ!ヒドイ!!!理人だって、女なんかとっかえひっかえのヤリ捨てだったじゃない!!!!」



な、なんだか、凄いヒートアップしてるよ…!


聞きたくなくても聞こえてきちゃうんですけど……。



「そう見えたんならそうなんじゃん。」


はぁ〜。とため息をつく男の先輩。



「なによ!やってることはアタシと、たいして変わらないじゃないっ!!」


「ただし。言っとくけど、俺。お前みたいな ''二股'' は、誰にもかけた覚えねぇから。」


「ーーっ!!」


「そんな汚ぇーやり方するかよ。もう話すだけで無駄だ。うぜぇから、失せろ。」


「……な、なによ…!…っ、理人のバカッ!!!!!」


中庭に女の先輩の声がこだましている…!



な、なんだかよくわからないけど、


あんまり見ちゃいけない場面を見てしまった気がする…。



というか、聞いてしまった気がする…。




再び中庭を見ると、男の先輩しかいなかった。


その時、階段をかけあがる音が!



「咲希ちゃーーーん!!!」



ゲッ!



唯ちゃん!!



「ごめんね!!待ったでしょ!?いま図書室開けるから!!」



ちょ、ちょっと!!



声が大きいって!!




こんなタイミングでさっきの先輩に気づかれでもしたら……!




すると男の先輩がバッとこっちを仰ぎ見た!




ひいぃーー!!!




「ゆ、唯ちゃん、早く入ろっ!」


「わゎ!ど、どうしたの!?」


唯ちゃんの背中を押して急いで図書室へと入った。



き、気づかれた?!




聞いてたのバレちゃったかも!!



どうか気づかれてませんように!




そんな心の声が、受付が終わるまで心の中で反芻していた。





結局私は仕事に集中できず、

なぜあの会話を立ち聞きしてしまったのだろう…?


なぜ4階まで聞こえてきたのだろう……??


と、しばらく後悔と疑問の荒波にのまれていたのだった。
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