不良リーダーの懸命なる愛
第九章

暗示

好きなんだ、私は。



こんなにもあなたのことが。




霧島くんのことが。




友達としてではなく、



ひとりの男(ひと)として…。







「咲希!」


急に呼ばれて、ハッと我に返ると、目の前にちーちゃんがいた!!


「ちーちゃん…。」


「何度も呼んでるのに反応しないし、それにもうHRとっくに終わってるよ?」


え!?


教室を見渡すと、すでに先生はいなくなっていて、生徒もほとんど帰ってしまっていた……。



い、いつの間に!?



「咲希、なんかお昼から変だよ?急にトイレに行って帰ってきたら、ボーっとしちゃってさ…!」


「う、うん。そうだね!しっかりしなきゃっ!」


本当は体育館に行ってたんだけど、トイレへ猛ダッシュしたことになっている。


さすがに、あの話を全て話すのは気がひけちゃうし……。


あまりおおっぴらに話していい内容じゃないもんね。



「咲希……。昼間の話なんだけどさ、本当に何もされてないんだよね…?」


「え……。」


「そのさ……笹原さん達に変な嫌がらせはされてない……?」



うっ……。



それは……なんとも…。



実際、朝の下駄箱にゴミがあるという事実はあるけど……。



笹原さん達がやったという証拠は無いし。



それに……。



「どうなの?されてるの!?」


ちーちゃんに言ったら、きっと笹原さん達に文句を言いに行きかねない!


そんなことになったら、ヘタしたら標的がちーちゃんになっちゃう!


「咲希…?なんで黙ってるの?!……やっぱり笹原さん達に何かされ」


「なんもないよ!!平気!…だから心配しないで?」


私はちーちゃんの言葉をあえて遮り、笑顔で答えた。


「咲希……。」


それでもちーちゃんは納得していないみたいで、眉をひそめている…!


「ちーちゃん、考えすぎだって!何かあったらちゃんと言うから。あ!もうこんな時間!!ちーちゃん部活でしょっ?地区大会のメンバー決め、もうすぐだもんね!頑張って!!」


「咲希…。……何かあったら、絶対言うのよ!?約束だからね!!」


そう言って、ちーちゃんは荷物を持って走って教室を出て行った。



ごめんね、ちーちゃん…。



本当の事を言えない罪悪感と、言ってはいけないもどかしさに苛まれてしまった。






教室を出ると、部活のユニホームを来た生徒たちとすれ違う。


そんな姿を見て、私も自分に気合いを入れる!



さてっ!



私もこの後はバイトだし!



気持ちを切り替えなきゃっ!!


昇降口までくると、無意識に7組の下駄箱に目がいってしまう。



霧島くん、もう帰っちゃったのかな…?




好きだと自覚してからは、彼の存在が私の中で急速に大きくなっていく……。



明日、また会えたらいいな。



霧島くんの笑顔を思うと、胸いっぱいに温かさが広がってきて、自然と頬が緩んだ。




すると。




「久しぶり、鳴瀬さん。」



近くで穏やかな声が聞こえてきた!



「あ!ヤスさん…!」


「元気そうだね。なんか良いことでもあった?」


「え?な、なぜですか??」


「ニコニコしてたから。嬉しそうに。」





!!!





み、見られてたなんてっ!!



恥ずかしすぎるっ!!



何も言えず、その失態を隠すように熱くなった顔を伏せた……。


「アレ?違ったか?」


「い、いえ!そんなことは!あ、あの、ヤスさんはもう帰るんですか?」


これ以上訊かれたらボロが出そうになるので、話をそらした。


「俺は向こうの校舎の屋上で昼寝かな。今日は陽気がいいし。」



え!!



お昼寝!?



ヤスさんのビジュアルからして、まさかこれから日光浴をするとは思わなかった…。


改めて思うんだけど、ヤスさんって見た目と中身のギャップが激しいような……?



マイペースというか、平和主義というか。



そんなことを本人を目の前にして思ってしまった。



でもお昼寝かぁ~。



確かに、ポカポカ陽気で気持ちよさそう!



屋上ならなおさら………って、



あれ??



「でも、屋上って確か鍵が無いと入れなかった気がするんですけど?鍵借りたんですか?」


「あぁ。アレには、ちとコツがあんだよな!鍵が無くても開けられるやり方がさ。俺と理人しか知らないけどね?」


急に霧島くんの名前が出てきて、トクンと胸が高鳴った……!



「今度鳴瀬さんにも教えてあげるよ。……あ。どうせなら理人が居るときに驚かせるか!急に鳴瀬さんが入ってきたら、アイツびっくりするな!きっと。ハハッ」


「ふふ。じゃあ楽しみにしてますね。」


と、そう笑いかけて下駄箱を開けた。





え………!?






靴が……無い………!??





ローファーが無くなっている!!




私、違う人のところに入れちゃったのかな!?



でも下駄箱の扉には名前が明記されてるし……!!



そんなはず無いよ!



私は信じられなくて、もぬけの殻になった自分の下駄箱をただ見つめるしかなかった…!




ま、まさか………。




これって….笹原さんたちの……



嫌がらせ……!?




そう直感したら、足が震えてきてしまった…!!



「どうかした?鳴瀬さん。」



ハッ!!



いけない!!



ヤスさんが近付いてきたため、バン!と勢いよく扉を閉める!!



「あ、あの、私……。きゅ、急に用事を思い出したので、急いで帰りますね!!それじゃ、また!さよなら!」


「え!?鳴瀬さん!?急ぎって上履きのままだぞ?!」



ヤスさんが後方から声をかけてくれるけど、
私はそのまま振り返らず、校門まで駆け抜けていった……。






咲希の姿が見えなくなると、ヤスはひとり、呟いた。



「なんか変だな…。」



すると明るい声がとんでくる!



「ヤスさん!どうしたんスか?こんなところでボーッと突っ立っちゃってさ~!!」


准平が鼻歌を歌いながらやって来た。


「…准平。お前に頼みがある。」


「え!?なになに!?もしかしてケンカ!?ヤスさんに頼られるなんて俺もすてたもんじゃねぇ~なぁ~♪」



するとヤスは、さっき咲希が開けた下駄箱をもう一度開けてみた。



「ある意味、そんな単純なものじゃねぇかもしれねぇな…。」


「え?何が??」




ヤスは、これから起こる受難を感じ取っていた…。


空っぽになった咲希の下駄箱を見て、


“靴” ではなく、


本当に排除すべき “モノ” があると、


この時気づいたからだ。
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