現代のシンデレラになる方法
その日は午後から出張で、院外研修に出向いていた。
終わったのは帰宅ラッシュに重なる時間。
最寄駅のホームで人ごみの中電車を待つ。
いつも車移動だったからか、より煩わしく感じる。
電車の中も混んでんだろうなー、と心底車で来なかったことを後悔していると、不意にホームの座席に座った相澤の姿が目に入った。
「相澤?」
「せんせ、」
そう俺を見上げた目は赤い。
……泣いたのか?
「どうしたんだ?」
「いやちょっと、具合が悪くなっちゃって」
「どう具合が悪いんだ」
そう聞くとあからさまに、しまった、というような表情。
そんな嘘は医者には通用しない。
なんだ、何か隠しているのか?
「えっと、えっと、本当になんでもなくて……っ」
「じゃ帰ればいいじゃないか」
「ちょっと休んでから帰ろうと……」
「なんだ、痴漢でもされたのか?」
適当に言ってみたら、口ごもって明らかに怪しい相澤。
どうやら当たってしまったらしい。
「え、マジで?」
「い、いや、あの、私なんかが痴漢なんて……っ。間違えかもしれないし……」
「そんなの問題じゃない、されたのか、されてないのか?」
問い詰めると、相澤はこくんと躊躇いがちに頷いた。
こうやって痴漢されたあとにも、自分なんかになんて言う位の奴だ。
痴漢する奴からしたら、弱気な彼女は格好の的だろう。
ちょっと猫背気味で、常に自信のなさそうな顔。
まるで、絶対に騒ぎ立てません、絶対に誰にも言いません、私は泣き寝入りしますって顔に書いてあるようだ。
……電車が苦手ってこういうことだったのか。
なのに、なんで嘘ついてまで、俺の迎えを断ったんだ。
「この前、電車大丈夫だって言ってたよな?」
「す、すいません」
「なんでそんな嘘ついたんだよ」
「え、えと、あの……っ」
そこで相澤の目から涙が零れた。
泣かせるつもりはなかったのに、つい責めるような口調になってしまっていた。
「悪い、ちょっと言い方きつかったな。ゆっくりでいいからちゃんと教えて」
謝る俺に首を横に振る相澤。
また涙が零れる。
ただでさえ帰宅ラッシュで人が多いホーム。
泣く女を慰める男の構図に、興味本位にちらちら見てくる通行人。
しかもこの人混みに加え電車は数分単位でやってくる。
様々な騒音にまみれたホームではゆっくり話せやしない。
「場所変えるか」
俺はそう言って、相澤の手首を掴んだ。
なんで、この子はこうも不幸なんだろうか。
たまたま不幸な星の下に生まれてしまったのだろうか。
それともそういう体質で不幸を呼び寄せてしまうんだろうか。
こういう弱気な性格だからっていうのもあるんだろうけど。
泣く彼女をチラ見して思う。
これじゃあんまりだ。
可哀想過ぎるだろう。
こんなに根はいい子だというのに。