現代のシンデレラになる方法




少しサボって中庭を歩いていると、あの憐れな女が目に入った。

ベンチに座り、1人呆けている。

また兄貴のことでも考えているのだろうか。


「これは、これは、みじめで可哀想な西川さん」

近づいてそう話しかけると、きっと睨みつけられた。


「あんたの正体バラすわよ?」

「好きにすれば?それでいづらくなるようだったら、すぐ辞めるし」

「本当最低ね」


指先にはまた傷が増えている。

本当性懲りもない、バカな女だ。

むくわれないって知っててよくやるよ。


「あんた、まだこりずに料理やってるわけ?」

「あんたに関係ないでしょ」


そう言って恥ずかしそうに指先を隠した。

あーあ、せっかく美人なのに。

なんでそんな無様なやり方しかできないかな。

それだけ綺麗なら他にいくらでも方法あるだろ。


「あんたさ、見てくれはいいんだから。もっと正攻法でいったら?」

「正攻法?」

「その年なんだし、少しは男をその気にさせる方法とか知ってるでしょ」


そう言うと、彼女は目線を下へ向け押し黙ってしまった。


「……あんた、30近くになるまで何してたの」

その様子に、思わずそう聞いてしまう。


「ひたすら、片思いだけど悪い?」

「他に男は?」

「いる訳ないでしょ。先生しか考えられなかったし」


ははは、本当に正真正銘のバカ女だ。

胸を張って言っているが、褒められたことじゃないだろ。


バカ過ぎてみじめなのを通り越して、憐れみさえ感じてしまう。


「俺が教えてやろうか?」

何気なく冗談で言った言葉だった。

なのに、彼女はその言葉に考え込んでしまう。

あまり本気にされるとうざいから、すぐ退場しようとしたところ、

不意に白衣の袖を引っ張られた。



「え?何?」

「教えてよ、どうやったら先生は振り向いてくれるの……っ」

「あんた、頭おかしいんじゃないの?」

「だって、どうしても先生のことが好きなんだもん」


目の前のどうしようもない女を蔑んだように見る。



あぁ、この女も兄貴のことしか見えていない。

皆、そうだ。


あの人も……






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