赤い電車のあなたへ






夏樹から、逃げたくない。


脅されるような言葉に、怯んじゃだめ。たとえ何をされたって、わたしは夏樹を嫌いになんてなれない。


夏樹ときちんと向き合おう。わたしはそう決意した。


だから、開いた襖をまた閉じて引き返し、畳の上に正座して両手を膝の上に載せた。


自分なりの決意の現れ。


夏樹からまで逃げたくないのだ、と。わたしはわたしに言い聞かせる。


怖くっても、夏樹は夏樹なんだから。怯んじゃいけない。逃げ腰にならずにきちんと話すんだ。


そうでなきゃ、わたしはきっと大人になっても同じことを繰り返してしまう。


嫌なことから逃げて、楽な方へ楽な方へと逃げこむ。それじゃあ何も生まれないし、何も変わらないし、わたし自身も成長なんかしない。


すこしはオトナになりたい。


精神的に成長して、今度お母さんと会えた時には大人になったと言われたい。


お父さんが亡くなってから十年間女手ひとつでわたしを育ててくれた。そんなお母さんを心配させないように。


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