赤い電車のあなたへ


わたしを轢きかけた車は停まる事なく、猛スピードを保ったまま走り去った。まるで、何でもないと言わないばかりに。


避けた時に捻った足首の痛みから、わたしの体はバランスを崩して砂利道に倒れた。


痛い……!


顔をうまくカバー出来なくて、砂利で傷ついたと痛みでわかった。


最悪じゃない……。


これから初恋の人に逢えるかもしれないのに、顔まで擦りむくなんて。


砂利道でよろよろ立ち上がったわたしに、後ろから声をかけてくれる人がいた。


「大丈夫かい? ひどい暴走車がいるもんだ」


嗄れた優しい声に、わたしは感じてた恐怖が少し和らいだ。


「はい……ありがとうございます」


重い気分でなんとなく振り向くのも億劫になり、わたしはぶっきらぼうに返したけど。失礼な態度を特に気にかける風もなく、前に回り込んだ人は60歳ぐらいのおじいさん。


「顔とか怪我してるよ。うちの店がすぐそこだから、手当てするだよ」


おじいさんは斜め向かい側にある和菓子屋さんを指差した。


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