赤い電車のあなたへ





1両目はガラガラ。


こんな時期は学生もあまり使わないから、やっぱり旅行者が多いな。


あ、おっきなカメラ持ってる人発見。


カメラマンか趣味でやってる人かな?


白髪だしたぶん定年後の人だよね。やっぱり趣味かな?


なんていろいろ想像しながら、2両目に目を向けたわたしは。


青い帽子を被った男性に目が留まった。


たぶん年は高校生かそれ以上。肩幅が広くてがっしりして……大きなバッグを持ってる。


学生かなと思うけど、はっきりした年はわからない。


服装もあまり垢抜けてなくて、世間一般でいうイケメンとかじゃない。


よく見ても十人並みの容姿。


それでも目に付いたのは、なんだか気難しい顔をしてたから。悲しそうな怒ったような。絶望したような。


なんだろうと興味を持ったわたしは、その人ばかり見ていて。


しばらくしてから、雷に打たれたようなショックを受けた。





笑顔――。




その人がはにかんだみたいな、照れた笑顔をしたから。



優しくて、柔らかくて、あったかい。





わたしの胸に、確かに焼き付いた。





ほんの一瞬だけだったのに。




わたしは。





恋に落ちてしまったんだ。



< 8 / 314 >

この作品をシェア

pagetop