金木犀のアリア
看護師が治療室へと導く。


話しかけながら、詩月の手をとり丁寧に薬を塗り、1本1本指にテーピングをしていく。


それは指を覆い、手の甲を覆い、手首までも覆った。


治療室の消毒薬の匂いが鼻をつく。


テーピングで固定され弱冠、自由を奪われた指。


詩月はまじまじと見つめ、こわごわと動かした。



弾けなくなるかもしれなかった……恐怖がじわり押し寄せ、詩月の全身に寒気が走った。



胸を締め付けられるような痛みに、詩月は両の拳を押し当てた。


視界が揺らぎ、目の前が暗くなり、詩月は「あっ」と声を漏らした。



「大丈夫?」


看護師に声をかけられ、詩月は「はい」と答えたが言葉にならなかった。




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