金木犀のアリア

3話/潮風香る

潮の香が穏やかに吹き抜けていく。

残暑も9月下旬に入り漸く和らぎ始め、街路樹が風景に色を添えている。

 詩月は中学2年生の途中から放課後や休日、街頭に立ちヴァイオリンを弾いている。

「舞台に上がり聴衆を前に緊張しないために」との元ヴァイオリンの師匠リリィからの勧めだ。

詩月は街頭演奏をしていることを公表していないが、学内では公然で、知らない者の方が少ない。

演奏を始めた当初は全く見向きもされなかったが、数年経った今では常連の聴衆も多い。

異人館通りの教会、駅前広場、商店街の裏通りなど、幾つかの場所をランダムに巡り、様々な曲を弾く。

自由に演奏することもあるし、リクエストに応じて演奏することもある。

場所ごとに聴き手の層も好みも違うことが、詩月の演奏の励みになっている。

 詩月は海を臨める公園が1番気持ちよく演奏できると思っている。

公園からは遠目にベイブリッジも見える。

赤い靴はいてた少女像、インド水塔、アメリカ・サンディエゴ市寄贈の水の守護神など、海外交流を感じさせるモニュメントも多い。
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