金木犀のアリア

3話/Que sera sera

「聞いたわよ。無茶をするわね」



「!?……何のことだ?」



 ピアノの実技試験の翌日。



試験会場へ向かう渡り廊下で、緒方郁子は詩月に声をかけた。



「ピアノの実技試験の後、失神したんですって!?」



「……気付いたら保健室のベッドの上……」



詩月は口ごもり俯いた。




「でも……『ラ・カンパネラ』凄い演奏だったって噂で持ちきり」



詩月はこめかみに手を当て億劫そうに溜め息をつく。



「悪いが、昨日の演奏はほとんど覚えていない。課題曲の終盤、調子を崩したが立て直し、2曲最後まで弾いたと保健の先生から聞いた」



「はぁあ!?……貴方って人は、ホントに不思議な人ね」

郁子の声が、一際甲高く廊下に響く。

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