金木犀のアリア
詩月の古典好きはリリィの影響だ。
無類の古典好きだったリリィは、ことあるごとに万葉集のエピソードや様々な古典文学を紐解き話してくれた。


士気は上がり、軍は活気に満ちるが、それに比例し敵も増え……。


栄華は続かない。



 自分の力以上に頑張れば、息も切れ支障をきたす。


自分自身を見失う。


そこをどう切り抜けていくかが難しい。



 繰り返される旋律が、怒濤のように押し寄せる。



絶え間無く激しく強く。


もっともっと、もっと高みへと向かう意志。


義経が、もっと思慮深く慎重で政治事に長けていたならと悔やまれてならない。



 『熱情』を弾きながら詩月が感じるのは、いつも壮快感だけではなく哀れさと非情さと無情さだ。



『祇園精舎の鐘の声、諸行無情の響きあり───』



平家物語の冒頭の1節が縦笛、鼓、琵琶の音色、和の調べと共に鳴り止まなくなる。
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