金木犀のアリア
財閥に嫁いだリリィは、人望も厚かったし、交友関係も広かった。

訃報を知り、次々に訪れる弔い客で立て込んでいて、ゆっくり御悔やみの挨拶もままならない状態だった。

それでも、詩月は彼女の為に1曲、ヴァイオリンを弾かせてほしいと懇願し、彼女が弾き聴かせてくれたヴァイオリン曲OP42ー3「懐かしい土地の思い出、メロディ」を弾いた。

詩月は、彼女への感謝と彼女の冥福を祈り、思いをこめて曲を弾きながら何故か、モルダウにチャイコフスキーを聴きにくる白い猫を思い出した。

抑えていた思いが込み上げ思わず、涙腺が弛み涙がこぼれ落ちそうだった。

演奏を終え部屋を出ると、リリィの娘が詩月に声をかけた。

「詩月くん、待って」

彼女は詩月に1通の手紙を差し出した。

「貴方、母の部屋の写真立てを知ってるでしょう? 母が若い頃の写真、猫を抱いた青年と一緒に写ってる……」

「……はい」

詩月はリリィの部屋の写真を思い浮かべ、あの写真がどうかしたのか? と疑問に思った。

「あの写真立ての中に、その手紙が入っていたの。一緒に写ってる男性に宛てた手紙だと思うの」

「あの……中を読まれたんですか?」

「ええ、いけないとは思ったのだけど」

「何故、僕に!?」

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