願望クエスト
鹿山博美はスマホ画面を小さくスライドさせ電源を入れると、それはぼうっと青白く点灯した。

「あゆ、これがその願望クエストだよ。」



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願望クエスト




あなたの願いは?


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真っ黒な画面には赤い文字で小さくそれだけが書かれてあった。

「これだけ…?」

御崎鮎はスマホ画面と鹿山博美の顔を交互に見て言った。

「よく見るとね、あなたの願いは?の下に文字を入力できるのよ。ここに自分の願い事を書き込むってわけ。」

確かにあなたの願いは?と書いてある行の下には白いカーソルがちかちかとしていた。

「ここに願い事を書くと、指令みたいなものが届くわけ。それをクエストって呼んでるんだけどね。まあ、駅にある自販機でジュースを買えとか、ポケットに赤いハンカチを入れておけとか、そんなものよ。」

御崎鮎は小学生のころ流行った、おまじないブックのことを思い出していた。それに似たアプリのようだ。

「で、そのクエストをいくつかクリアしていくとどんな願いも叶う、っていうアプリなのよ。…例えば誰かを殺したいっていう願いでも。」

御崎鮎はぎょっとして、唾液をごくっと飲み込んでから鹿山博美を見た。

「おまじないみたいなものじゃないの…?」

こわばった表情の御崎鮎がおかしくて鹿山博美はくしゃみのように笑ってから言った。

「そうそう、おまじないみたいなものよ。そんなにびっくりした顔しないでよ。」

「…そうだよね!」

御崎鮎はスマホ画面にもう一度視線を落とした。

「愛那はこれに彼氏がほしいってお願いしたわけか…だったら願いが叶ったばかりで自殺なんておかしすぎるし、病んでた様子もなかったよね?」

「うん、楽しそうだったし、愛那が死んじゃう前の日も、全然変わった様子がなかったからさ…」

二人はそこで黙ってしまった。愛那の事件があってから、教室は以前の賑やかさを失っていた。

「…ところで、博美も願望クエストやってるんだよね?どんなお願いしてるの?」

「…え?…私…?」

キーンコーン カーンコーン

重苦しい雰囲気を変えようした御崎鮎の質問は、授業開始のチャイムで打ち切られた。
鹿山博美は「じゃあ…」と小さく言って自分の席に戻っていったが、御崎鮎は博美の顔が一瞬青ざめたのを見逃さなかった。
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