薬品と恋心
男達を睨み付け、警戒心をあらわにするティアに小太りの男が語りかける。
「気がついたね。ようやく話ができるな、ジェンティアナ」
「…話?あなたが私を拐うよう言った人なのですか?」
ティアは小太りの男に怪訝な顔を向ける。
「人聞きの悪い。話がしたいから連れて来るように言っただけだ。まあ、どんな手を使ってもいいとは言ったけどね」
男はそばにあった古い椅子に腰を下ろした。
椅子は男の体重を受けてギ、と軋む。
少し着くずしたシャツにベスト、ズボンというどこにでもいそうな格好をしている。見る限り特に特徴的なものはない。
仕事上ティアは依頼人と直接会うことはしないため、知り合いなどそんなにいない。こんな男など知らないと言いたいところだが、よく見るとこの顔と姿に見覚えがあった。
ある意味忘れたくても忘れられない。なぜなら彼は舞踏会の日、ティアにしつこくダンスを迫った男だったのだから。
しかし、この男がティアを捕らえた理由は舞踏会で会ったから、というものではないのは明白だ。
今のティアは大人の姿ではなく、子供の姿なのだから。