AfterStory~彼女と彼の話~
 まだ雨は降り続いている。

 どれくらい抱きしめ合っていたか分からないけど、彰の腕の力が緩んで、少しだけ距離が開いた。

 彰は俯きながらスーツの袖で目元をぬぐいながらベンチから立つと、私は手放した傘を右手で拾って、改めて相合傘をする。

 私の方が彰よりも身長が低いから、かなりアンバランスな相合傘だ。

「お互いずぶ濡れで、(傘をさす)意味は無いけど」
「そうだな」

 やっと彰が笑ったので、私も微笑み返す。

「見っともないところを見せたな」
「ううん。みっともないなんて、無いよ」

 ちゃんと彰の気持ちは分かってるよと、左手で彰のスーツの裾をぎゅっと握ると、彰は私を抱きしめた。

「………ありがとう」

 耳元で小さな声でお礼を言われ、不謹慎だけれどちょっと嬉しい。

 彰は抱きしめた腕を緩め、私の両頬を大きな手で優しく包むと、お互いの鼻先がくっつく。

「彰、誰か来ち―…」

 その先の言葉は、彰の唇が封じ込めた。
 
 どうしよう、こんな場所でと思っている自分と、続けて欲しい自分が混在している。

 傘をさしているけれど、他の人から見れば男女がこんなにも体を寄せてキスをしているのが一発で分かるよ。

 それでも彰の唇は離れることはなくて、私も離してほしくなくて、キスの深さを増していく。

 時折啄ばむキスをすると雨の雫が口の中に入ってくるけど、何故か冷たい感じはしなくて、彰から受けるキスの方が熱い。

 意識が遠のきそうなのを堪えるために彰のスーツをギュッと掴んで、必死に彰からのキスに応える。
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