AfterStory~彼女と彼の話~
 普通乗用車の中でそれぞれが買った飲み物を飲んでいると、フロントガラスに水滴が落ちた。

 それが徐々に増えていき、フロントガラスは突然の雨による水滴で前が見えない状態になる。

「これじゃあコインランドリーに戻れないですね」
「だな。(雨が)やむまで、待つしかねぇな」

 玲二さんは運転席のシートの角度を少しだけ後ろに傾け、体を預けて小さく息を吐いた。

 私が角井百貨店の帰りに"レオ"という犯罪組織を目撃をしたことで追いかけられるようになり、玲二さんに24時間体制で護られることになった。

 送り迎えやアパートの外での警護もしているから、休める時間が少ない筈なのにコインランドリーに行きたいだなんて、玲二さんのことをもっといたわらなくちゃ。

「疲れが溜まってますよね?」
「ん?あぁ…、悪い。お前が気にすることじゃねぇよ」
「でも―…」

 玲二さんは苦笑しているけれど、いつも護ってもらっているから何か出来ることないかな?あっ、そうだ。

「今度、美味しいケーキを食べに行きませんか?お昼休みに同僚から『Focus』という雑誌を貸してもらって、そこに美味しいケーキ屋さんが載っていたんです」
「ケーキか。暫らく食べてねぇな」
「行きましょ?疲れには甘いものが良いんですよ?」
「………甘いものねぇ」

 何故か玲二さんが私の顔を見てにやりとしたのが気になり、私って変なことを言った?

 玲二さんは左耳に付けているインカムを外し、いつもきちんと締めているネクタイを右手でグイっと緩め、シートベルトを外す。

「玲二さん?」
「疲れたら甘いものが良いって言ったのは、おまえだろ?」

 玲二さんは左手を伸ばして、親指で私の唇をなぞる。

「こんなところを誰かに見られちゃいますよ?そうだ、鷲宮さ―…」
「誰にも邪魔させねぇよ」

 玲二さんは右手で無線機のスイッチの電源を落とした。

 警護で使用している普通乗用車には無線が搭載されていて、いつでも鷲宮さんたちと連絡が取れるようにしているから助けを求めようと思ったのに……。

「もう諦めろ」
「ん…」
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