AfterStory~彼女と彼の話~
【南山彰side】

「何やってんだ!この馬鹿!!」

 刑事課に鈍い音が響いて、俺は痛む頭を抑える。

「全力でやることはないでしょう?ゲンコツなんて、親父以来ですよ」
「お前みたいな若い奴には、全力で教えるのがベテランの役目だ」

 俺はぶすっとしながら、自分の席に座る。

「俺は張り手往復だったから、ゲンコツ1つの方がいいよ」
「それは先輩のミスですから」
「山さん、南山にもう一度ゲンコツ1つお願いします」
「おう、何度でもいいぞ」
「席を外します」

 付き合いきれないと思って、刑事課を出ていく。

 俺にゲンコツ1つをしたのはベテラン刑事の山さんで、俺がひったくり犯に手を挙げた話を聞いたらしく、口頭注意じゃなくて厳しくするためにああして手を挙げる。

 何も全力で打たなくても…、殴られた所はまだヒリヒリするし、ちょっと外の空気を吸って気分を落ち着かせようと屋上に向かうと沙紀がいて、左手には包帯が巻かれていた。

 俺がもっと早く着いてたらと、昨日のことを思い出す。

 沙紀と別れた後、パトカーに無線でひったくり犯の逃走経路が分かったと情報が入ったので、俺はパトカーから降りて小宮駅に向かって走ったら、ひったくり犯に襲われそうになった沙紀が見えたので、全速力で近づいていく。

「沙紀!!」

 普段は仕事中のように東雲って呼んでいるけれど、恋人として、大切な人が傷つけられたらと思って名前を叫んでいた。

 しかも沙紀は左手に怪我を負ったみたいで、俺はパトカーに乗ろうとしているひったくり犯に手を挙げる。

 警察官としてやってはいけないことをしたけど、そんなことはどうだっていい。

 恋人が怪我をしてるんだから、犯人に対してむかついたけど、沙紀を守れなかった自分にも殴りたかった。

 屋上で沙紀を安心させたくて、抱き締めた。

 震える沙紀の背中を撫でるけど、世の中の男はこういう時はどんな風に慰めるのか。

 自信家と言われる俺も、大切な人の前じゃただの男だ。

「もう大丈夫だから、此からも守るから無茶するな」
「うん」

 精一杯の気持ちを伝え、安心させようと沙紀を見つめてキスをして、昼の時間を2人で過ごしたのだった。
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