AfterStory~彼女と彼の話~
今日の分の仕事を終えて、帰り支度をする。

「お先に失礼します」
「風邪を引かないように。また来週に」
「はい」

総務課の人たちに挨拶をして、足早に四つ葉出版社を出ると、スマホを使って幸雄さん宛にメッセージを送る。

『風邪を引いたと聞きましたので、今からそちらに行きます。何か欲しいものありますか?』

数分もしない内に、メッセージを受信する。

『ありがとう。喉が渇いているから、飲料水が欲しい』
『分かりました。途中で買って行きますね』

短いメッセージのやり取りをして、途中でスーパーに立ち寄って水分補給用の飲料水とお粥の材料を買って幸雄さんの所に向かった。

幸雄さんが住むマンションに着いて、ドアの前に立つと、インターホンを押す。

『はい』
「美空です」
『今、チェーンを外すね』

ガチャっという音がして、ドアが開かれた。
以前は私の元彼とのトラブルで自宅謹慎となった幸雄さんを訪ねた時はドアが開くことは無かったけど、今は違うからホッとする。

幸雄さんは上下スウェット姿で、愛用しているチェック柄のメガネは掛けてなかった。
いつも四つ葉出版社やデートをする時にはお洒落な着こなしをしているけど、こうしたスウェット姿はプライベートだから気を許してくれているんだと、恋人の特権て意外な一面を見れることかなぁと思う。

「来てくれて、ありがとう」
「これくらいは気にしてないですよ。悪化するといけないので、ベッドに戻って下さいね」

私は玄関をあがってスリッパを履いて、キッチンに買い出しをした袋を置く。

「ベッドに戻る」

幸雄さんは咳をしながら寝室に戻り、ドサッと横になったのを確認して、私はお粥を作り始めた。

スマホで料理サイトのページを表示させて、お粥のレシピを探すと沢山あって迷う。

「短時間で簡単にするなら、卵を使ったお粥かな」

私はレシピを見ながらお粥の材料を取り出して作り始めたけど、やっぱり慣れないことは時間が掛かっちゃった。

スプーンでお粥の味をし、コンロの火を止めて、食器棚を開くと、一人暮らしなのか、お椀が1つとお皿が2枚しかない。
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