AfterStory~彼女と彼の話~

├彼が風邪を引きました(東雲沙紀side)

【東雲沙紀side】
彼が風邪を引きました。


公休日の火曜日のお昼頃、スーパーの袋を抱えて雪が残る道を歩き、とあるマンションの前に立って見上げる。

「ここに住んでいるんだ」

私はあまりの高層ぶりに、騙されてるんじゃないかと思った。

「とにかく、入ってみよう」

入り口を入るとホテルの受付のようなカウンターがあり、中ではスーツをビシッと着こなす男性が1人いる。

恐る恐る近づいていくと、男性が私に気づいてにこりと微笑んだ。

「こんにちわ」
「こ、こんにちわ。東雲沙紀と申します。此方にあき…、南山彰さんが住んでいらっしゃいますよね」
「南山様ですね。一度ご本人様にお繋ぎします」

男性は白い受話器を取り出して、番号を押す。

「南山様。受付でございますが、此方にお客様がお見えになられてます。はい…、はい」

男性はちらっと私を見る。

「ええ。確かに、そう仰ってました。はい、かしこまりました。ご案内致します」

静かに受話器が置かれ、男性がカウンターから出てきた。

「東雲様」
「はいぃ」

変な声で返事をすると、男性はクスッと笑う。

「南山様の元へご案内いたしますので、どうぞ」
「はぁ…」

男性の後に続いてエレベーターに乗ると、男性は20階のボタンを押した。

 (本当にここに住んでいるの?)

疑心暗鬼なままエレベーターは20階へ到着し、男性はすたすたと廊下を歩くので、置いていかれないようについていく。

廊下の角に止まると、表札に"MINAMIYAMA"と書かれていたので、騙されてなかったんだと安心した。

「でわ、わたくしは失礼致します」
「ありがとうございました」

男性が立ち去り、私はインターホンを押すとドアが開いて、オデコに冷却シートを貼ってスウェット姿の南山が出てきた。

「いらっし…ゃい」
「無理に喋らないでいいから、ほら入ろう?」
「ああ」

私は中に入って靴を脱ぎ、スリッパを履いて、初めて南山の部屋に入る。
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