AfterStory~彼女と彼の話~
南山が風邪を引いたと知ったのは、昨日の月曜日だった。

その日の夜、生活安全課のデスクワークを進めていると、1人の男性がスーパーの袋を手に持ちながらずかずかと入ってきた。

「東雲って奴はいるか?」
「私ですが」

手をそ~っと挙げると、男性は私の傍にきて袋を机の上にドサッと置く。

「これ、南山に渡せ」
「はい?」
「風邪を引いたって連絡がきたから、渡しておいてくれ」
「どうして私に?」
「俺は取調があるから忙しいんだよ」
「えっ、待って下さ…」

男性はぶっきらぼうな言い方をして、生活安全課を出ていく。

「山さん、被疑者が黙秘してはいてくれません」
「生ぬるいやり方がいけねぇんだよ」

廊下から男性の会話が聞こえて、あの人が南山にゲンコツを御見舞いした山さんなんだと、初めて理解した。

私はスーパーの袋の中身を、そっと見てみる。

「栄養ドリンク?」

他には梅干しと、漬物がそれぞれ入ったパックがあった。

先ずは南山の容態が気になるし、指でスマホの画面を弄ってメッセージを作る。

『風邪を引いたって、聞いたよ。渡したい物があるから、彰の所に行ってもいい?』

送信ボタンを押したら、すぐに返信がきた。

『ありがとう。住所は××市W地区3の4◎◎マンション2015室だ。入り口に来たら、名前を言えば入れる』

そのメッセージを受けて、公休日に初めて南山の住むマンションに来たのだ。

高層マンションに住んでいるなんて知らなかったし、初めは住所を虚偽申告して騙したのかと思ったけど(警察官だからそうしないか)、受付の人は南山の事を様付けで呼ぶし、部屋に入ればモデルルームですか?と突っ込みをしたくなるくらい、家具や家電がお洒落すぎる。
< 49 / 165 >

この作品をシェア

pagetop