AfterStory~彼女と彼の話~
宿直室で濡れたスーツとYシャツと靴を脱いで、タオルで水滴を拭いて、ロッカーに置いていた予備の物に着替える。

男に飛び付いた拍子に川の中に体が浸かってしまい、全身にずぶ濡れになってしまった。

山さんにこっぴどく叱られたけど、これで捜査の進展に繋がればいい。

タオルで髪の毛を拭いて濡れた物はボストンバッグにしまって、刑事課へ戻るために廊下を歩くと、生活安全課から沙紀が紙の束を幾つか抱えて出てきた。

「南山、お疲れ。活躍したらしいじゃん」
「らしいじゃなくて、したんだけど」
「はいはい。相変わらず凄いですね」
「まあな」
「ほんと、その自信たっぷりな所は変わらないね」

自信は元々あって、少しずつ検挙件数も伸ばしてきている。

沙紀とは付き合う前からも何かと小言を言い合うが、それに居心地の良さを感じているのは内緒だ。

「そんなに紙の束を使って、何をするんだよ」
「犯罪防止キャンペーンや、ストーカー相談窓口キャンペーンを近々やるから、その準備。子供向けにもヨーヨー釣りのプールを作れって」
「成る程ね」
「小宮駅前でビラも配るけど、少しでも相談がくるといいな」

沙紀がいる生活安全課は犯罪防止やストーカー相談を受けており、そこから事件が起こらないようにすることが一番だが、願い虚しく事件が起きてしまい俺たち刑事課が出てくる場合もある。

「まだ寒いから、ビラを配って風邪を引くなよ」
「ありがと。これから小宮駅で準備があるから、またね」
「ああ」

小言を言い合っても、沙紀の笑顔は事件の捜査で疲れてる俺に元気をくれる。

沙紀は階段を降りて行き、俺は刑事課の部屋に戻った。

「戻りました」
「報告書を作って、係長に渡しておけ」
「はい」

先輩刑事に命令され、俺は自分の席に座って報告書を書き始める。

事件概要から逮捕に至るまでの調書資料を参考にしながら書いていると、刑事課内に無線が流れた。

『小宮駅前の宝石店から、強盗が入ったと通報有り』
「皆、行くぞ」
「はい!」

また新しい事件が発生すれば、直ぐ様現場へ直行しなければならない。

俺たちは刑事課を出て、パトカーに乗って現場へ向かった。
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