星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



ミュージカルをや映画を楽しんだり、
宝珠姉から譲られた、オーケストラの演奏を聴きに行く。




予定としては、何だってよかった。



百花ちゃんと少しでも逢う理由が出来れば、
そこから何か、心の霞を突破できるような気がして。




この想いが……恋なのか、愛なのか……
ただ……理佳を求めすぎているだけなのか……。




仕事の合間に、何度も電話をかけあって逢瀬を重ねる間に
季節は、1ヶ月過ぎようとして10月の下旬になろうとしていた。



10月27日。
理佳の月命日。


何時もは一人で過ごすことを選ぶ月命日だが、
その月は、百花ちゃんと逢う約束をしていた。



昼頃に起きて、
いつもの様にアイツのお墓へと墓参りに向かう。


何度も足を運ぶ間に、顔馴染みになってしまったお寺の住職が
俺の姿を見て近づいてくる。



「こんにちは。
 今月も理佳ちゃんのお参りにいらしたんですね」

「はいっ」

「孫が亀城君の活躍を教えてくれましたよ。

理佳ちゃんの告別式の時に、
 いきなりバンドの演奏をやりたいと言うときは
 私も驚いたものです。

 だけど今も頑張っているんですね」


昔の話を懐かしむように言葉にする住職。


「松岡住職、覚えてくださっていて有難うございます。
 今はあの頃と違って、少し正念場にと言うか……」

「そのようですね。
 理由は存じ上げませんが、理佳ちゃんのお墓にお参りに来る貴方は
 いつも思いつめたような、辛そうな顔をされていました。

 ですが……今日は、
 心なしか陰りが薄くなっているような気がいたします。

 ゆっくりとご自身の心と向き合うと宜しいでしょう。

 御仏はいつも寄り添ってくださいます」



俺を理佳のお墓に辿り着くまで、
松岡住職は優しく語り掛けながら隣を歩く。

理佳のお墓の前に辿り着くと、
ゆっくりと数珠を手にして、念仏を唱え、何かを言葉にして
お辞儀をして境内へと戻っていった。



10月下旬の少し肌寒さを感じる風を感じながら、
俺はアイツのお墓の前に腰を下ろす。

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